『詩経』 秦風 黄鳥(しきょう しんぷう こうちょう) その1
~ チャイナ古代の殉死に見る空気(風潮) ~
【還暦ジジイの説明】
チャイナ、春秋時代「春秋五覇の一人」と謳われた秦の王・穆公は、崩御に際して、177人の臣下及び宮女を道連れにした。
所謂、殉葬です。
この中に良臣と評された子車氏の三人の息子(奄息、仲行、鍼虎)も含まれていた。
その三兄弟の死を悼んで詠んだのが、この『黄鳥』の詩。作者不詳です。
優秀で人柄も良かった三兄弟を、なぜ穆公は道連れにしたのか?
可哀想じゃないか、酷いじゃないか、と哀しんだ。
『詩経』は庶民の詩から孔子が編纂したものなので、一般庶民の声、を反映している。
従って、三兄弟を詠っているが、当然ながら他の百数十人の親兄弟の声も代弁している。
この『黄鳥』の詩は素朴な庶民の声。
しかし、殉死は仕方ないとする空気(風潮)があり、半数ぐらい占めた。
よって、責任は支配者ではなく「天」にあり、とする。
これが一つ目の解釈。
穆公逝去後、秦は敵国に攻め込まれ、国は窮地に陥った。
そりゃそうですよね、妻妾だけを道連れにしたのなら兎も角。
優秀な臣下を道連れにしたのだから、政治力が衰えた。
ならば、穆公は本当に名君と言えるのか?
と、人々は批判した。
だから、この「黄鳥」の詩は「殉死は支配者の暴挙」と指弾したもので、責任は穆公にありとする。
これが二つ目の解釈で、これも多数を占めた。
現代人の感覚で最も理解できるものだろう。
<その2へ続く>
はじめに その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 その9
【原文1】
黃鳥
交交黃鳥 止于棘
誰從穆公 子車奄息
維此奄息 百夫之特
臨其穴 惴惴其慄
彼蒼者天 殲我良人
如可贖兮 人百其身
【読み下し文1】
交交たる黃鳥は、棘に止る
誰が穆公に從う 子車奄息
維れ此の奄息は、百夫の特
其の穴に臨めば 惴惴として其れ慄る
彼の蒼たる者は天 我が良人を殲せり
如し贖う可くんば 人 其身を百にせん
【現代語訳1】
飛び交いて鳴く黄鳥(ウグイス)は、棘の木にとまる。
穆公に殉じて死んだ者は誰? 子車氏の奄息だ。
この奄息は、百人にもあたる傑れた人。
いまその墓穴に臨めば、ぞっとして慄れる。
ああ、蒼天よ、こんな善い人を殺すとは?!
もし身代わりができるなら、百のその身も惜しむまい。
【語彙説明】
○黄鳥(こうちょう) ・・・ コウライウグイス(高麗鶯)
○鍼虎(けんこ) ・・・ 子車氏の三兄弟の一人。読み方は「けんこ」「かんこ」と両方あるが、『漢詩大系 第一巻 詩経 上』(集英社)に従って「けんこ」とした。