将棋の話― 観る将ファンの為に ― 


 第12局 羽生九段がA級陥落!



 羽生善治(はぶよしはる)永世七冠、将棋界のスーパースターが、29年間在籍したA級を陥落しました。

  A級は順位戦の最高クラスで、10人のみ。トップ棋士の証。タイトル保持者並みの扱いで崇められる。

 その上、年間勝率が生涯初の5割を切った。ギャーッ!!

 将棋ファン歴40年の私にとっては、心にポッカリ穴が開いた様な気分です。


 野球界で言えば、イチローが年間200本安打を達成出来なくなった時の落胆に匹敵するでしょうか。


 羽生さんは、現在、満51歳。


 棋界雀は、簡単に、

 「もう歳だから」

 と、片付けていますが、それは、違う!

 と、私は、観ています。

 本気で将棋だけに集中すれば、未だ未だ、A級の座どころか、名人も奪還できた。


 羽生さんは、25歳で七冠同時制覇を成し遂げましたが、それから2年ほどで、次々とタイトルを失いました。

 目標を見失ったんでしょうねえ。

 そして、自分を見つめ直したんでしょうねえ。

 「技術の研鑽」だけが、棋士の本分ではない、と。


 だから、「もう一度、七冠を目指しますか?」との度々の質問に、必ず、

 「いえ、目指しません!」ときっぱり答えています。


 ファンとしては、常に複数タイトルを保持し、A級て居て欲しいと願います。

 プロ野球で云えば、毎年、三冠王を獲って欲しいと願うに近い。


 ところが、これをやろうとすると、

 生活の全ての時間を「将棋の技術の研鑽と対戦相手の研究」に、

 費やさなければならなくなる。



 昔から、「野球バカ」と云う言葉があります。

 現役選手として、一生懸命、野球技術のみに全力を注ぎ、野球以外の教養がゼロの選手を揶揄(やゆ)したものです。

 いざ、現役を引退すると、コーチや監督の指導者としての能力や教養が(つちか)われていないことが露見します。


 野球の故・野村克也監督(好きじゃないけど)が選手に開口一番、教えてましたね。

 「人生、現役を引退してからが長いんだ」と。


 羽生さんは、脳科学者・茂木健一郎氏に、「将来どうなっていたいですか?」との問いに、

 「自分の想像できないものに成っていたい」と答えています。

 「えっ!?想像できないもの?例えば、ハリウッドの俳優とか?」

 「ええ!ええ!そうです!そうです!」


 私は、羽生さんがA級陥落を期に、現役引退したら良いのになあ、と、期待しています。

 何故なら、現役引退後の羽生さんの第二の人生を見てみたいからです。

 いや、それどころか、もし将棋界から離れることが出来たら、一体、どう化けるのか、と、想像を膨らませるくらいです。

 五十代の若い時に!


 

  近年の羽生さん


 

  10年前の羽生さん


  

 七冠同時制覇(平成8年)
 畠田理恵さんと結婚当時

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【追記】

 「スーパースター」とは、業界での実力ナンバーワンであると、同時に、教養と品位を兼ね備えていなければならない。

 将棋界が実力制になって約80年、「スター」と呼ばれる棋士は、升田幸三九段、米長邦雄永世棋聖と居た。

 政界だろうが、産業界だろうが、他の業界の第一人者と話をさせても引けを取らなかった。

 しかし、この二人は、実力的には、大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人に後塵を拝した。

 だから、「スーパースター」とまでは、云えない。

 吾らが羽生善治は、両方ともに兼ね備えた「スーパースター」である。


 現在、現役棋士と引退した棋士及び女流棋士も含めると約220名ほど居ます。

 この中で、他の業界の人と最も交流がある棋士は、抜きんでて羽生さんでしょう。

 出版書籍で、他の業界人も含め、自分の専門技術以外の著書でベストセラーを叩きだしているのは、恐らく羽生さんがナンバーワンでしょう。


  著書『決断力』『大局観』『直観力』は70万部を超えるベストセラー。

  NHK『プロフェッショナル』の視聴者アンケートで、最も印象に残った言葉は羽生さんの一言だった。


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 講演、対談、雑誌のインタビュー、加えて、将棋の普及活動。

 将棋界で最も忙しい人と言われ続けて来ました。

 そして、故・米長邦雄が将棋連盟会長だった頃、相談相手として最も頼りにされていたのも、羽生さんです。



【解説】  令和4年(2022年)2月5日現在

○羽生さん・・・将棋棋士・羽生善治永世七冠のこと。

  羽生善治(はぶよしはる)のプロフィール。(詳細 wikipedia

  将棋界が実力制になって約80年、史上最強の棋士。将棋界のスーパースター。

  将棋界七大タイトル(名人・竜王・王位・王将・王座・棋聖・棋王)の全て永世称号を有する。史上唯一人。

  タイトル獲得数99期は歴代最多。通算対局数は2000局を超え、通算勝利数も歴代最多の1434勝(更新中)。

  そして、何より史上最強の根拠は、通算勝率が7割を超えていることだ。

  タイトルを1期獲得することもできない棋士が8割。1年間だけ勝率7割を記録することも困難な中、この実績である。


  藤井聡太四冠(竜王・王位・叡王・棋聖)が将来羽生さんの記録を抜く可能性は大いにあるが、最速でも15年以上先の話。

  但し、聡太君は、今期(令和3年度)「四冠を既に保持し、19連勝も記録、通算勝率も8割を超えている」ことで、

  既に、瞬間的には羽生さんを超えた、と云える。


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