『詩経』 小雅 「鴻鴈之什」 鶴鳴 その2 (しきょう しょうが こうがんのじゅう かくめい)
【還暦ジジイの説明】
漢詩の解釈には色々あり、この「鶴鳴」も同じく二つに別れる漢詩です。
「他人のふり見て我がふり直せ」「反面教師」の説が一つ。
これは前回紹介した。
今回は、もう一つの解釈である
「他国から嫁いできた花嫁を讃える祝頌詩である」とする説を紹介します。
【現代口語文】
詩の題名: 鶴鳴
曲がれる沢に鶴は鳴き、その鳴き声は野にもとどく。
魚は深き淵に泳ぎ、また浅き水辺に泳ぐ。
めでたき彼の国の地は、むくの木が茂り、にわうるしが茂る繁栄の地。
ここに嫁ぎし他国の娘も、玉を磨く砥石のごとく立派な妻となろう。
曲がれる沢に鶴は鳴き、その鳴き声は天にもとどく。
魚は浅き水辺に泳ぎ、また深き淵に泳ぐ。
めでたき彼の国の地は、むくの木が茂り、こうぞが茂る繁栄の地。
ここに嫁ぎし他国の娘も、玉を磨く砥石のごとく立派な妻となろう。
【真意】 ~眉雪の勝手読み~
これは庶民の詩であり、政治的哲学的な意味はなく、他国から嫁いできた新婦を祝頌する詩である。
「檀」「蘀」「穀」の樹木が茂るは、その地の繁栄を象徴するものとして謡い込まれたもの。
鳥・魚・樹木は、吉祥とされるものが連ねられており、そこから連想されるのは次の様な解釈である。
樹木は生い茂り、鶴は空高く飛ぶ。
その様に繁栄した国から嫁いできた新婦は、立派に妻としての役割(子宝に恵まれ、子孫繁栄を齎す)を果たしてくれるに違いない。
めでたし!めでたし!
【読み下し文】 註:歴史的かな遣い・正漢字で書かれています。
鶴 九皐 に鳴き 聲 野に聞こゆ
魚潛みて 淵に在り 或いは 渚に在り
樂しきかな 彼の園は 爰に 樹檀有り
其の下に 維れ蘀
它山の石も 以て錯と爲る可きならん
鶴 九皐 に鳴き 聲 天てんに聞こゆ
魚 渚に在り 或いは 潛みて 淵に在り
樂しきかな 彼の園は 爰に 樹檀有り
其の下に 維れ穀
它山の石も 以て玉を攻く可きならん
【原文】
鶴鳴
鶴鳴于九皐 聲聞于野
魚潛在淵 或在于渚
樂彼之園 爰有樹檀
其下維蘀
它山之石 可以爲錯
鶴鳴于九皐 聲聞于天
魚在于渚 或潛在淵
樂彼之園 爰有樹檀
其下維穀
它山之石 可以攻玉
【語彙説明】 註:()カッコ内は、出典。
〇鶴(かく) ・・・ 鳥の「ツル」。
〇于 ・・・ 「于」は衍字(えんじ)で、語句の中に間違って入った不必要な文字。よって、飛ばして読む。
〇九皐(きゅうこう) ・・・ くねくねと蛇行する沢のこと。「九」は数字ではなく「たくさん」の意で、「皐」は「沢」の意。
〇魚潜在淵 ・・・ 「魚」は多産と豊穣を齎す生き物とされた。「淵」は、水の深い所。
〇渚(しょ) ・・・ 洲の周辺の浅瀬のこと。
〇彼之園 ・・・ 異国、他国の意。
〇爰(ここ)に ・・・ 「ここに」と読む語助詞。
〇檀(だん) ・・・ ムクノキ。
〇蘀(たく) ・・・ 〔拡大〕 蘀 樹木名であるとし、「樗」と解する。和名「シンジュ」または「ニワウルシ」。前句と合せて「上に樹檀が有り、その下に樗が茂る」と読む。「落ち葉」の意味ではない、と石川博士は記している。
よって、「嫁いできた女性の居た国の繁栄を祝頌する」句である、としている。
〇它山(たざん) ・・・ 異国、他国。他国から嫁いできた女性の意。
〇錯(さく) ・・・ 玉を磨く砥石の意。
〇穀(こく) ・・・ 樹木の「カジ」「コウゾ」のこと。
〇攻(みが)く ・・・ 「錯」と同様、玉を磨く、研ぐの意。
【参照文献】
『新釈漢文大系 111 詩経 中』 石川忠久・著 明治書院 1981年(昭和56年)12月1日発行
【プロフィール】
石川忠久 (いしかわ ただひさ、1932年〈昭和7年〉4月9日 - 2022年〈令和4年〉7月12日)
日本の中国文学者。学位は、文学博士。号は岳堂。
二松学舎大学名誉教授・顧問、桜美林大学名誉教授、日本中国学会顧問、全国漢文教育学会会長、斯文会理事長、
六朝学術学会顧問、全日本漢詩連盟会長、漢字文化振興会会長。漢詩の著書・編著多数。