却東西門行(きゃくとうさいもんこう) 作:曹操
【還暦ジジイの説明】
【原文】
却東西門行 作:曹操
鴻雁出塞北 乃在無人郷
挙翅萬餘里 行止自成行
冬節食南稲 春日復北翔
田中有轉蓬 随風遠飄揚
長與故根絶 萬歳不相當
奈何此征夫 安得去四方
戎馬不解鞍 鎧甲不離傍
冉冉老将至 何時反故郷
神龍藏深泉 猛獣歩高岡
狐死歸首丘 故郷安可忘
【読み下し文】
東西門に却るの行
鴻雁 塞北に出でて 乃ち無人の郷に在り
翅を挙ぐること萬餘里 行止 自ら行を成す
冬節に南稲を食し 春日に復た北に翔る
田中に轉蓬有り 風に随って遠く飄揚す
長く故根と絶ち 萬歳まで相ひ當たらず
此の征夫を奈何せん 安んぞ四方を去るを得ん
戎馬 鞍を解かず 鎧甲 傍を離れず
冉冉として老いは将に至らんとす 何れの時にか故郷に反らん
神龍は深泉に藏れ 猛獣は高岡に歩す
狐死して歸って丘に首ふ 故郷 安んぞ忘るべけんや
【読み下し文】〔吉川幸次郎・訳〕
鴻雁は 塞の北にぞ出まる 乃ぞ 人無き郷なるなり
翅を 万里の余に挙げ 行くも止まるも 自ずと行を成す
冬の節には 南の稲を食い 春の日には 復た北に翔せゆく
田の中に 転ぶ蓬有り 風に随いて 遠く飄い揚がり
長く 故の根と絶れ 万の歳までも 相ひ当わず
奈何ぞや 此の征夫も 安ゆえに 四方に去くことを得とはする
戎の馬は 鞍を解かず 鎧と甲とは 傍を離れず
冉冉として 老いは将に至らんとす 何の時にか 故郷に反らん
神龍は 深き泉に蔵み 猛獣は 高き岡に歩み
狐は死すときに帰りて 丘に首すとかや 故郷の安んぞ忘る可き
【現代口語訳】
鴻雁は塞北の地に生まれて、人も住まぬところに棲んでいる、
翅を広げれば一気に数万里を飛び、その動作には自づから様式がある、
冬には南の地にあって稲を食い、春になると北に戻るのだ。
田んぼの中に蓬が生えている、風にしたがって遠く吹き飛ばされ、
根っこと離れたまま二度と一緒になることがない
蓬のように故郷を離れ遠く遠征する兵たちよ、いまさら戦いを止めて戦場を去るわけにはいかぬ、
戎馬の鞍はつけたまま、鎧甲は片時もはずさない
月日は過ぎて年老いていく身には、いつ故郷に戻る望があるのだろうか、
龍は深い淵に隠れ、獣は丘に馳せ、
狐は死ぬと故郷の方角を向いて倒れるという、どうして故郷を忘れることなどできるだろうか
【解説】
【語彙説明】
○行止 ・・・ 行きつ戻りつする動作。
○冉冉 ・・・ 時の過ぎ行くさま。
【出典】
吉川幸次郎の読み下し文 『中国の歴史5』 陳舜臣・著 平凡社