『金縷衣』  (きんるのころも)  作:杜秋娘


【還暦ジジイの説明】

 「金縷衣」は「金縷曲(きんるのきょく)」とも言い、『金色夜叉』で貫一が深夜に泥酔して帰宅したとき、介抱する宮に聴かせた。

 作者の杜秋娘は、「としゅうじょう」と読み女性。「娘」は「嬢」と同じで、「杜秋さん」程度の意。

 漢詩の作者は大抵男性なので、作者が若い女性であることを示す為に付けたのであろう。

 女流作家と格好良く紹介されることが多いが、娼家の女性なのでね~、どうなんでしょうか。


【原文】


 金縷衣  杜秋娘


 勸君莫惜金縷衣

 勸君須惜少年時

 花開堪折直須折

 莫待無花空折枝



【読み下し文】


 金縷(きんる)(ころも)  杜秋娘


 君に(すす)む ()しむ(なか)れ 金縷(きんる)(ころも)

 君に勧む (すべから)く惜しむべし 少年の時

 花(ひら)き ()るに(たえ)えなば (ただ)ちに(すべから)く折るべし

 花()きを()ちて (むな)しく(えだ)を折る(なか)れ 



【現代語訳1】


 金縷の衣  杜秋娘


 君に勧める。金糸(きんし)の着物を着られる栄達(えいたつ)にこだわるな。

 君に勧める。若いときを大事にしなさい。

 花は、折り取るにふさわしい時期に折るべきで、

 躊躇(ためら)って、花が散ってから慌てて、花のない枝を折るべきではない。



【現代語訳2 ・・・ 佐藤春夫・訳】


  「ただ若き日を惜め」


 (あや)にしき 何をか ()しむ

 惜しめ ただ君 若き日を

 いざや折れ 花 よかりせば

 ためらはば 折りて 花なし


  註:文字と文字の間の空白は私が恣意的に開けたものです。原文は下記画像に。



【還暦ジジイの意訳】


 「何よりも若い時季(とき)こそ大切」


 さ、お一盞(ひとつ)どうぞ。安易な昇進なんて望んではいけませんよ。

 さ、も一盞(ひとつ)どうぞ。若い時季(とき)こそ大切なんですよ。

 (花を活けるには最も良い時季があるように、)人にも時季があります。

 (花が散ってから活けようとしても意味がないように)人も時季を逸すると取り返しはつかないんですよ。



【還暦ジジイの解説】


 この漢詩は「金縷曲」とも呼び、娼家(しょうか)の杜秋娘がお酒を()ぐ時に(うた)ったとのこと。

 若い芸者が、若い男性客に対して、古歌を謡ったような雰囲気じゃあないでしょうか。

 『金色夜叉』で貫一が深夜に泥酔して帰宅したとき、介抱する宮に聴かせた詩なんですが、そうすると、解釈はちょっと変わる。

 男性に対してなら、「安易な昇進や出世を求めちゃいけない」と言う戒めになる。

 女性に対してなら、「薄っぺらい金持ちの男に目が眩むなよ」と言う戒めだろうか。



【他の解釈】

 好きな人がいたらすぐに思いを遂げなさい。躊躇って愚図愚図していると、花は折られて枝しか残っていませんよ。



参照:『唐詩三百首3』 〔全3巻〕  訳注者:目加田 誠  東洋文庫267  平凡社  昭和50年2月25日発行

参照:『日本の詩歌 16  佐藤春夫』    中央公論社  昭和43年7月5日発行


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【語彙説明】

〇金縷(きんる)の衣 ・・・ 金色の細い糸で織った布でできた上等の衣服で、そういう衣服を着る身分の人を指す。

〇杜秋娘(としゅう‐じょう) ・・・ 唐朝の金陵(現在の南京)の娼家の女。「杜」が姓で「秋」が名。十五歳で大官李錡(りき)の妾となり、酒盞(しゅさん)を勧めるときにいつも、この「金縷曲(きんるきょく)」を(とな)えたという。後に、穆宗(ぼくそう)に命じられて皇子の守役となる。

 穆宗 ・・・ 古代チャイナ、清朝第10代皇帝である同治帝の廟号。

〇須(すべから)く ・・・ 当然。是非とも。


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