長恨歌(ちょうごんか)  作:白楽天(はくらくてん)


【還暦ジジイの説明】


長恨歌(ちょうごんか)』は、唐代の玄宗(げんそう)皇帝と楊貴妃(ようきひ)のエピソードをうたった長篇詩。

白楽天(白居易)の作。

元和元年(西暦806年)、彼が35歳、盩厔県(ちゅうちつけん)(陝西省周至県)尉であった時に詠った。

形式は七言古詩(歌行とも言う)。


玄宗皇帝は臣下の諫言(かんげん)にも耳を傾け、良い政治を行い、世の中は平和で、人々は豊かな生活を楽しんでいた。

しかし、在位の後半、平和であるが故に、政治に関心を失い、楊貴妃を溺愛し、直言の士を遠ざけ、姦臣(かんしん)が幅を利かせるようになった。

そして、「安史(あんし)の乱」という大きな反乱が勃発し、玄宗皇帝は都を追われ退位させられた。


没落の原因が楊貴妃に有るとし、後世『三大悪女』の一人に数える人もいたが、彼女は政治には一切口を出していない。

(たし)かに、傾城傾国(けいせいけいこく)の美女には違いないが、調略の主役となった西施(せいし)貂蝉(ちょうせん)と異なる。

よって、没落の原因は、玄宗皇帝が政治を(おろそ)かにしたのことであり、楊貴妃は決して悪女ではない。


以下の原文は、冒頭の一部のみ。


【原文】


 漢皇重色思傾国 御宇多年求不得

 楊家有女初長成 養在深閨人未識

 天生麗質難自棄 一朝選在君王側

 迴眸一笑百媚生 六宮粉黛無顔色


【読み下し文】


 漢皇(かんこう)色を重んじて傾国(けいこく)を思ふ。

 御宇(ぎょう)多年求むれども得ず。

 楊家(ようか)(むすめ)有り初めて長成す。

 (やしな)はれて深閨(しんけい)に在り、人(いま)()らず。

 天生の麗質(れいしつ)(みずか)ら棄て(がた)く。

 一朝(いっちょう)選ばれて君王の(かたわら)に在り。

 (ひとみ)(めぐら)し一笑すれば百媚(ひゃくび)生じ。

 六宮(ろっきゅう)粉黛(ふんたい)顔色(がんしょく)無し。


【現代語訳】


 漢の皇帝は美人を得たいと思いながら、

 これまでの長い治世に求めても得られなかった。

 楊家に一人の娘あって大人になり、

 家の奥で育てられ人に知られることはなかった。

 持って生まれた美貌は隠しがたく、

 ある日選ばれて君主の傍らに召された。

 瞳をめぐらし微笑めば媚びが生まれて、

 後宮の美人たちも形無しとなる。


【語彙説明】

〇漢皇(かんこう)・・・玄宗皇帝を指し、直接名指しするのを(はばか)った。

〇傾国(けいこく)・・・絶世の美女のこと。美女を得た帝王が政治を忘れ国を傾けてしまうほどという意味。

〇御宇(ぎょう)・・・治世の間。

〇六宮(ろっきゅう)・・・宮中の奥御殿。

〇粉黛(ふんたい)・・・美女を指す。


【人物プロフィール】


〇白居易(はく きょい、西暦772年~846年、没74歳)

  字は楽天で、日本では「白楽天」で有名。
  唐代中期の詩人。本貫は太原郡陽邑県。兄は浮梁県の主簿の白幼文。弟は白行簡。
  北斉の白建の末裔にあたる。


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