春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)
18歳未満入室禁止です!(笑)
私流の現代口語訳 全文(7)
さてペニスを抜く段になって、女は用意の紙が枕元にあると知っているが、
手が届かず、その身は茶臼(騎乗位)の最中だ。
長襦袢は後ろにすべり落してあり、腰巻さえ剥がされて丸裸で、
流石に正気に戻るとあまりの取り乱し方が、今更に恥ずかしく、
顔を隠そうにも隠すべきものがない有様だ。
仕方なく男の上に乗ったままで顔を男の肩に押し当てて大きな溜め息をつくばかりである。
「どうしたんだい?」と下から問い掛ければ、鼻をつまらせた泣き声で、
「あなたどうかしてちょうだいよ。紙(ティッシュ)が取れません。」
「取れないのなら拭かないでもよいワ。重くてならない。」
と下から女の肩を押して、身体を起こそうとした。
煌々とした電灯の下で、起きることも出来ないと見え、じっとしていたのだが、
入れたままの一物は、小さくなる気配がないので、そっと下から軽く動かしてみた。
女は何とも言わない。
こりゃあてっきり、二度目をやりたがっているのだな、と、思って、吹き出しそうになった。
暫くして腰を休めると、女は案の定、夢中で上から腰を遣ってくるのだから恐ろしい。
「擽たくないか?」と聞いてみると、
鸚鵡返しに「あなたは?」と情けなさそうに言うのは、
もしそうであっても「我慢して下さい」という積りなのだ。
一度気をやれば暫くは、擽たくてならないという女がいる。
また二度三度と続けざまに気をやって、四度五度に及んだ後は、
もう何が何だかわからず、無闇と逝き通しのような気持ちで、
骨身のクタクタになるまで男を放さない女もある。
男が一遍行う間に、三度も四度も声をあげて泣くような女でなくては面白くない。
男もつい無理をして、明日の疲れも厭わず、入れたままに燕返しにして、
一晩中腰の続く限りに泣かせ通しに泣かせてやる気にもなる。
お袖とは、そうする中、茶臼(騎乗位)で脆くも三度目の気をやったのだが、
私の方は、もともと燕返しが無理なので、一向に平気で、今度こそ我慢しないでもなかなかイキそうな気がしないので、
まず入れたまま横になって、女の片足を肩にかついで、おのれは身体を次第に後ろにねじ回して、
半分横取りの形をとる。
抜き挿しが電灯の光でよく見えるので、「お前も見て楽しみな」と教えるのだが、
女は泣き腫らした眼を瞑ったままで、
「またいいのよ。どうしたんでしょう。あなたあなた、アレ私もう身体中が・・・」
と皆まで言えず四度目の気をやり始め、グッと突き込まれる度に、ヒイヒイと言って泣き続けていた。
それが、突然泣き止んだと思ったら、今にも息も絶えそうに肩で息をついて、両手は両足とともにバタリと投げ出して、
濡れた陰部を晒け出して平然としていた。
私の方は、少し良くなりかけて来たが、このまま逝く(射精する)までやれば、
それこそ女の疲れは相当だろうと、気の毒になって、そのまま二人とも拭きもしないでウトウトと一眠りした。
【解説】
著者(永井荷風)、金阜山人、古人(主人公)の3者が入れ子構造で話が構成されており、
話し手を、それぞれ、《著者》、《山人》、《主人公》 と小文字で示す。
話の大半は古人(主人公)であり、ページに話し手を示していない場合は、古人(主人公)である。