春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)

 私流の現代口語訳

 18歳未満入室禁止です!(笑)


 【背景】

『四畳半襖の下張』は、永井荷風が雑誌『文明』(大正6年)に発表した短編小説。

金阜山人(きんぷさんじん)」なる初老の男が、偶々(たまたま)買った古家(ふるいえ)の四畳半で、襖の下張から古人(不明)の手による春本を見つけ、

それを清書して読者に紹介するという話で、『荷風全集 第12巻』に収められているのだが、

それとは別に春本版『四畳半襖の下張』がある。これが本稿である。


荷風本人は認めていないので、全集に、この春本版は収録されていない。

春本版は、出入りしていた門人が、小遣い稼ぎに、荷風の書き損じの原本を持ち出して好事家(こうずか)に売ったものが、

地下出版され、世に出てしまったのではないか、と推測されている。


大東亜戦争の終戦前後から知られるようになり、春本における傑作の一つとされてきた。

昭和23年(1948年)に出版社が摘発され、荷風は警視庁の事情聴取を受けた。(『断腸亭日乗』昭和23年5月)


荷風は、はじめの部分は(おおよ)そ自分が書いた文章だが、後は他人が書いたものだ、と弁明している。

しかし、猥褻(わいせつ)とされる部分の文体も、荷風としか考えられない、との意見が文学者間の有力な説である。


昭和47年(1972年)雑誌『面白半分』に再度掲載され、編集長・野坂昭如と出版社が摘発された。


通常、猥褻出版の摘発は、裁判に至らず、出版社が謝罪、書籍を回収し、幾許(いくばく)かの罰金を払って終結する。

これが、通例なのだが、今回、編集長・野坂は、法廷で争うと宣言した。

よって、日本文学史上初の猥褻裁判なのだ。(笑)

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そして、裁判の経過を週刊誌が逐次掲載したことで、世間の注目を集めた。


この裁判が有名になったもう一つの要因は、特別弁護人として丸谷才一。

証人として、石川淳、開高健、吉行淳之介、有吉佐和子、五木寛之、井上ひさしなど、錚々(そうそう)たる作家が立ったことだ。


結果、日本文学史上、特筆すべき論点を浮き彫りにし、記録に残したことに意義があった。


 【挿話】

 論点とは別に、被告人・野坂昭如は、この春本は傑作であり、荷風が、自分の文章であると認めていないのは、

 実に情けない奴だと批判している点だ。(笑)


 【あらすじ】

作者「金阜山人」が買った古家(ふるいえ)の四畳半で、襖の下張から「不明の古人」の手になる春本を見つけ、

それを清書して読者に紹介するというもの。

古人は、老人もしくは中年者と(おぼ)しき人物で、これが主人公。

性的体験の遍歴や年齢とともに変ってゆく女性観、性意識などが述べられた後、

妻の「お(そで)」が芸者の時(「袖子(そでこ)」と称した)の情事を回顧風に書いている。

この情事の部分が、露骨かつ詳細に描写されているとの(かど)で、摘発されたのだ。

性行為の描写が終わると、お袖との結婚後の模様が作者の女遊びなどを(まじ)えて簡潔に記され、話は突然に終る。


 【話の構成】

所謂(いわゆる)「入れ子細工」の構造で、荷風作の短編小説に屡々(しばしば)見られる特徴だそうである。

則ち、我々が目にしている文、第一枠は《著者》が書いたものだ。

その基となる文は、第二枠《金阜山人(きんぷさんじん)》が、襖の下張から筆写したもの。

その襖の下張の文は、第三枠《古人》=主人公が体験談を綴ったものだ。

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 【お急ぎの方へ】

 もう、まどろっこしい箇所は読みたくない!

 エッチなところから読みたい!

 と仰るせっかちな貴方!

 「私流の現代口語訳 全文(4)」から読んで頂ければ、宜しいかと思います(笑)



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