春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)

 18歳未満入室禁止です!(笑)


 私流の現代口語訳 全文(5)

 《主人公》

私の方が、余裕綽綽(よゆうしゃくしゃく)で横取りの体位で(しばら)くしていると、

お袖としてはお義理一遍にただ身体を貸すつもりでも、そこは生身の悲しさ。


 


夜具の中が蒸すように熱くなるにつれて、あそこが(うるお)ってきて、鼻息も少しずつ荒くなって来る。

前半では四五回に一回、後半では二三回に一回、グッと深く挿入し、

次第次第にピストン運動を激しくすれば、女は、もうじきお役が済むだろうと早合点して、

この機を逃さないで一息に男を()かせてしまおうという腹積りになる。


両手で男の胴を締めて、(にわ)かに激しく腰をつかい出せば、夜具のすれる響き、枕のきしむ音がする。

伊達巻きの端もいつか(ほど)けてしまう。

遊び慣れていない客なら、大抵この辺で、意気地なく射精してしまう。

されどもこっちは百戦錬磨。

敵の計略を利用して、却ってその隙を衝く。フフフ


女は早く男に射精させてしまおう、と、急いで激しく腰を使う。

ところが、それに伴って自分も幾分(いくぶん)かいい気分になってしまう。

私の方は、頃合いを見計らって、何もかも夢中のように見せかけて、片手で夜具をを()退()ける。

これは後になって袖子を裸にしてピストン運動を見せながら愉しもうという準備だ。


暫くすると、袖子は、このまま激しく腰をつかい続けると、愈々(いよいよ)本当に自分が高まってしまうと気づいて、

やや調子を緩やかにしよとする。

私は、またもや二三度夢中の様子で深くペニスを挿入する。


女は今度こそ射精するのかと早合点して、もとのように激しく腰を使う。

こっちは三四回の抜き挿しで調子を合わせた後でグッと一突き深く挿入してから、

引くはずみに、(わざ)とペニスを抜いてみせる。

と、驚いた女は男の一物を指先で膣へ入れる。


それにつれて私も手を差し込んで、

「毛が入ると危ないよ」

と言って、また抜く。

今度は自分の手で入れる際に、その辺りのところを探すふりをして、クリトリスを指先でいじる。


女は「この場になって、そんな悪戯(いたずら)しては嫌よ」とも言えず、

黙って男のなすがままにさせるより(ほか)ない。

これは、私の初めからの作戦である。ふふふ


男の夢、腕の見せ所は、何か?

女に最初の床で、したたかに気を遣らせてみせるのが男の腕の見せ所だ。

大抵の女は、誰しも慎み深く、初めてのお客に取り乱してしまうのは、みっともない、と思っている。

だから、初めての客たるものは、その辺の加減を心得ておく必要がある。


初めは全てアッサリとして、十分に女を油断させて、中頃よりそろそろと術を(ほどこ)せばよい。

もともと死ぬほど嫌な客なら床へは来ない訳なのだから。


口説かれて仕方なく寝る、という(てい)にするのは芸者の見得なのだ。

初めての床に取り乱すまいと心がけるのも女の意地。


その辺の呼吸をよく呑み込んだお客の手練手管(てれんてくだ)の術にかかれば、

知らず知らずに、よくなりだして、気がついた時にはいくら我慢しようとしても、もう手遅れなのである。


元来、淫情(いんじょう)の強いのが女の常で、一つよくなり出すと、男の良し悪しや、好き嫌いに(かかわ)らず、

恥かしさを忘れて必死にかじりつき、鼻息は火のようになって、

「もう少しだからモットモット」

と、泣き声を出すのも珍しくない。


そうなれば肌襦袢(はだじゅばん)も腰巻きも男の取るにまかせて、色々な体位でフラフラにしてやるほど嬉しがる。

()い立てた髪が乱れようともかまわず、骨身のグダグダになるまで、よがり尽くさねば止まらないほど熱は凄まじい。


腰の弱い客は却って、とんでもない事を仕掛けてしまったと後悔するほどだ。

「アレいきますヨウ」という刹那(せつな)に、女の口を吸って舌を噛まれるドジな客もあるとか。(笑)


 【解説】

 著者(永井荷風)、金阜山人、古人(主人公)の3者が入れ子構造で話が構成されており、
 話し手を、それぞれ、《著者》、《山人》、《主人公》 と小文字で示す。
 話の大半は「古人」の主人公であり、ページに話し手を示していない場合は、主人公である。


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