春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)
18歳未満入室禁止です!(笑)
私流の現代口語訳 全文(4)
《主人公》
私の女房のお袖が、まだ袖子といって芸者をしていた頃の事だ。
二十三四の年増盛りで、小柄で肉付きがよかった。
頃合いを見て、否応言わさず芸者屋から連れ出して、茶屋に泊まらせた。
その様子が、どのようなものだったか話そう。
ふふふ
袖子はまず帯を解いて長襦袢一つで伊達巻の端をきっと締め直して床に入ってくる。
今夜は浮き世の稼業だから仕方ないとでも言わんばかりだった。
長襦袢の裾を堅くひき合わせているのは、女が、仕事馴れして男の配い方を熟知している証。
しかし、こっちは、こんな女にこそ羽目をはずさせれば、どんなに楽しかろうと考えている。
床の中で、私からは手を出さず、至極さっぱりした客だと見せかけて、何ともない世間話をする。
タイミングを見計らって、ちょっと片足を向こうに入れて、起き直るような振りをすると、
それと心得ている袖子は短時間で事を済ませようとの魂胆で、私の身体が上に乗り易い様にと姿勢を整える。
私もこれが客の役目だという風な顔つきで、なすがままに、ただし接吻もせず、深く抱きもせずに、
正常位で静かにピストン運動する。
そうしながら、アソコ(道具)の良し悪しや肌触り、肉付きを探索するが、女には気付かせない。
いかに遊女であろうと、この場合に至っては男の顔をまともに下から見上げるわけにもいかない。
袖子は目をつぶって、男のピストン運動に合わせて腰をつかい続けていた。
頃合いをみて、
「酒を飲み過ぎたせいかなぁ、これではあんまり長くかかって気の毒だ。体位を変えたら気も変わるかなぁ」
と、独り言のように言って、ペニスを入れたままで身を横にすれば、女も仕方なく横になる。
上の方にしていた片手をやり場がないと見せかけて、
女の尻を抱いてみると堅太りで円くしまった肉付きは無類のよさだ。
女の尻と言うものは、あまりに大きくて碾臼のごとくに平たいと、抱き具合がよくない。
四這いにさせてバックからやるなんて以ての外だ。
居茶臼という曲芸的な体位など到底できるものではない。
女は胴の辺りが少し括れたように細くしなやかで、下腹がふっくらして、
尻は大きくもなく小さくもなく、円くしまって、内股は熱い程の暖かさで、
その肌触りは絹のように滑らかであれば、良いのだ。
アソコが少しくらい下つきでも、技術を磨けば随分と男を迷わせることが出来る。
【解説】
著者(永井荷風)、金阜山人、古人(主人公)の3者が入れ子構造で話が構成されており、
話し手を、それぞれ、《著者》、《山人》、《主人公》 と小文字で示す。
話の大半は「古人」の主人公であり、ページに話し手を示していない場合は、主人公である。
〇伊達巻(だてまき)・・・長襦袢の上や着物の上に締める幅の広い長方形の、帯状のもの。
〇居茶臼(いちゃうす)・・・男が足を伸ばし半身を起こした膝上で抱き合い女が騎乗位となる。
〇下(した)つき ・・・ 膣の入口が後方にあることで、挿入し難く、慣れない男性からすると、良くないと言う評価をした。