『寒山拾得』 (かんざん じっとく) その5 ‐まとめ‐    著:森鴎外

【還暦ジジイの追記】


 他人事なら笑い話、自分が当事者となると、目が見えなくなる。

 「恋は盲目」「痘痕(あばた)(えくぼ)」と言うが、(まさ)に同じ。


 さて、騙されないようにするには、どうすれば良いのでしょうか?

 或いは、騙されたって、それで幸せであれば、良いのではないでしょうか?

 はたまた、本当に騙されているのでしょうか?


 日本文化に詳しい或るチャイナの方が言いました。

 「日本人は単純なんです」と。

 これを聞いて、「なるほど、そうだよなあ」と鵜呑みに納得する日本人が、意外に多い。

 内心、「俺は単純じゃないけどな」と、思ってる。うふふふ


 このチャイナの方は、親日家で、日本を馬鹿にしているんじゃあないんです。

 表現が難しいのですが・・・


 *-----*


 例えば。

 日本の時代劇。

 濡れ衣を着せられ、命が危ない、脱藩したが、刺客(しかく)が追って来る。

 ()()く山に逃げ込んだ。

 しかし、多くの追手が四方八方から迫って来る。

 そこに見知らぬ男が現れ、抜け道を案内してくれて、危機を脱した。

 絶体絶命のピンチに見知らぬ人が、自らの危険を顧みず助けてくれる。

 日本の時代劇、ドラマにはよく有る場面です。


 顔と話しぶり、言葉だけで信用して、お互いに虎穴(こけつ)()る。

 感動の場面ですよね。

 助けてくれた人が、若い美女だったりしてね。ふふふ


 ああ、やはり、人間の正義感とか誠実さは、顔に(にじ)み出るんだなあ、と、私なんか憧れると同時に涙してしまったものです。


 ところが、チャイナの人に言わせると、

 そんなの子供騙しだ!

 若い子に嘘を教えちゃあ駄目だ!

 となる。


 チャイナにも似たような話があります。


 春秋戦国時代、()の国から逃亡した伍子胥(ごししょ)

 賞金が()けられ要所々々の船着場には検問が敷かれている。

 (かわ)を前に途方に暮れていたところ、見ず知らずの船頭がニッコリ微笑(ほほえ)んで向う岸に渡してくれた。

 伍子胥はどうしたか?

 その船頭を斬って捨てたんです。

 ギャーッ!

 恩を(あだ)で返すのか!?非道な奴め!人の命を何と思ってる!

 でしょう?


 ところが、チャイナの人に言わせると、そりゃ当然でしょう、となる。

 「だって、伍子胥はお金銭(かね)を持ってなかったじゃない!」

 素寒貧(すかんぴん)!(笑)

 「だったら、船頭が、賞金を貰っても良いでしょう?」

 となる。

 それに、間違いなく伍子胥だと言う確証と、その後の逃亡経路も知っているから、通報すれば必ず賞金を手にできる!

 ねっ!

 チャイナ人は、(したた)かなんです。

 だって、伍子胥だって、庶民なんかの命は、虫けら同然に考えてますから。

 お互い様なんです。


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 そのチャイナの方が曰く、日本的に言えば、「チャイナ人は嘘つきで、人を簡単に裏切るし、騙す」と言うことになる。

 チャイナ的に言えば、「日本人は単純」となるんです。

 これ、どちらの悪口でも、ないんです。


 日本人は、他人を「良い人か悪い人か」「正義か悪徳か」みたいに、白黒だけで理解しようとする。

 日本人は、よく「下心がある」「思惑がある」と言って非難するけど、チャイナ人に言わせると、そりゃ当然でしょう、となる。

 下心も無く純粋な気持ちだけで身の危険も顧みず行動するのは、親だけでしょ。

 他人に自分の子供と同様の愛情を注ぐことを求める、そんなの無茶でしょ。

 何か得るものが無ければ、ねえ。


 チャイナ人は、他人を一面だけで理解しない。 

 相手は必ず下心がある。何か得することがある。

 と考えて、それが納得できれば、疑いは氷解する。

 しかし、納得できなければ、口で言ってることは(むし)(うそ)。本音は正反対だと考える。

 とことん性悪説で他人を (はか)らなきゃあ、命が幾つあっても足りない。


 いや、いや、でも、チャイナにも、「管鮑之交」「刎頸之交」なんて(ことわざ)があるじゃあないか、と、納得しない日本人も居るでしょう。

 あれは、幼い頃からの親友であり、親兄弟も代々交流があるから。

 その上、特種なケースで、チャイナにはあの様な信頼関係が少ないから、余計に誇張して言い伝えたもの。


 よって、昨日今日呑みに行って知合った人、ましてや、初対面の人なんかを信用しない。

 だから、船頭の密告は正しい。伍子胥が船頭を斬ったのも正しい。チャイナでは。

 あははは

 単純な考え方じゃないんです。

 複雑、二重構造、保険を掛けている、絶対損をしない

 などなど ・・・

 どれが適切な表現でしょうか?


 そして、日本は日本で、日本的な時代劇で良いんだと思います。

 ただ、世界の人と付き合う場合は、この点を、よく踏まえていないと、逆に馬鹿扱いされる。


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 【参照】

  歴史噺 2.なぜ河を渡れたのか?

       続き: 2の追記(友人との呑み会の為に)



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