劉安の饗(りゅうあんのもてなし)  第十二話


小沛で呂布に破れた劉備(りゅうび)は、曹操の助けを求め許都(きょと)へ逃亡する。

途上、村々の老幼男女(ろうようなんにょ)は、劉備様が通ると聞いて、沿道へ出、涙ながらに拝跪(はいき)した。

田夫野人(でんぷやじん)と呼ばれ、赤貧洗(せきひんあら)うが(ごと)しの生活であるにも(かかわ)らず、彼らは、劉備に食料をに(ささ)げた。


その夜、劉備は、ある猟師の茅屋(ぼうおく)(かくま)って貰うこととなった。

主人は劉安(りゅうあん)と名乗り、漢室の血筋だと言う。

劉安は、(もてなし)のため肉料理を出した。

貧しいことは重々察せられるのに、肉を供せられるとはどういうことか。

劉備が問うと、劉安は「狼の肉です」と答えた。

(かつ)えていた劉備は料理を満喫した。


ところが翌朝、劉備は厨房(ちゅうぼう)で女性の遺体を発見する。

劉安を詰問(きつもん)すると、彼は食べ物が無かった為、愛妻を殺してその肉を(きょう)したと話した。


劉備は感涙(かんるい)し、「共に許都へ行こう。官職を(たまわ)る様に推挙する。」と誘ったが、

劉安は、「年老いた母を残して御供(おとも)するわけにはいかない。」と断った。

仕方なく劉備は、劉安の息子・劉封(りゅうほう)を養子とすることにした。


後日、劉備が曹操に会ってその経緯(いきさつ)を説明すると、曹操は立派な行いと称賛(しょうさん)し、劉安に百金を与えた。


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吉川英治は、著書『三国志』に載せるかどうか、悩んだ挙句(あげく)載せたそうである。

おい!おい!

私は、話の内容より、吉川英治が悩んだことに、驚くと同時に落胆した。

何を躊躇(ためら)うことがあろうか!

読者を少年少女と想定したにせよ、絶対に載せるべきではないか!



 (追記:友人との呑み会の為に)


【解説】

劉安(りゅう あん)・・・『三国志演義』の第十九回に登場する架空の人物。劉備を匿う猟師の男。

茅屋(ぼうおく)・・・ぼろ屋

赤貧洗うが如し・・・洗い流したように、所有物がまったくない貧乏な状態の形容。

田夫野人(でんぷやじん)・・・教養がなく、礼儀を知らない粗野な人。「田夫」は農夫。「野人」は庶民、いなか者の意。

正史(せいし)・・・事実だけを載せた歴史書の意。対義語は稗史(はいし)。

        但し、その時代時代の権力者が改竄を指示するので、必ずしも、正史が事実とは限らない。

        『三國志演戯』は、一部創作が加えられ、架空の人物も登場するので、稗史である。


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