劉邦は英雄か?  第十三話


漢の高祖・劉邦(りゅうほう)は、元々、呑んだくれの渡世人(とせいにん)だった。

大富豪の呂公(りょこう)が、将来天下を取る大人物の人相だと言って財産を突っ込み支援した。

呂公は、箕箒(きそう)(しょう)でよいからと、娘の呂雉(りょち)(後の呂太后)を妻の猛反対を押し切って劉邦に嫁がせた。

余程、気に入ったのであろう。


劉邦の成功に欠かせない側近が、蕭何(しょうか)である。

さらに曹参(そうしん)樊噲(はんかい)、そして、後に加わった張良(ちょうりょう)韓信(かんしん)など、忠臣が居ればこその成功。

劉邦も、彼らの諫言(かんげん)に耳をよく貸し、感情に走らなかった。


後世の女流史家の中には、劉邦は英雄なんかではない。

酒と女に目のない(ただ)の馬鹿だ。(笑)

蕭何こそ英雄で、頭脳の役目を果たしていた。

劉邦は単なるスピーカーだった、とコテンパンである。


劉邦は項羽(こうう)との戦で何度も敗走した。

妻の呂雉、子供達、実母が人質に取られ、崖上(がけうえ)から、「蹴落(けおと)すぞ!」と脅迫されたことは何度もある。

しかし、その度に劉邦は「好きにしろ!」と取り合わなかった。

ある時、馬車に子供2人と劉邦、そして馭者(ぎょしゃ)の4人で逃走していた。

馭者が「このままでは追いつかれます!」と言うので、劉邦は、子供2人を馬車から蹴落した。

何とも凄まじい英雄だ。(笑)


妻の呂雉からしたら、こんな最低の亭主、いずれ殺してやりたいと憎んだに違いない。

後世の女流史家にも嫌われる所以(ゆえん)である。


まあ、兎にも角にも、劉邦は最後の最後に項羽を破って、天下を取った。

そして、長年の夢であった何百人もの美女と財宝に囲まれ、酒色に溺れた。

治平に尽力していたのは、やはり忠臣達である。

まあ、これも致し方なかろう。


しかし、問題は、劉邦が寵愛(ちょうあい)した(せき)夫人だった。

彼女は、(おろ)かにも息子・如意(にょい)を太子にして()しいと、劉邦に懇請(こんせい)した。

劉邦は承諾(しょうだく)した。

こっちの方が、愚かか。

これだけは、やっちゃあいけなかった。


当然ながら、正室の呂太后(呂雉)は、激怒した。

結婚当初から苦労を重ね、逃走の繰り返し。

何度も殺されかけた。

それを乗り越えて今の地位がある。


なのにあろうことか、頂点に上り詰めた劉邦だけしか知らず、何の苦労もしていない女(戚夫人)が、自分の息子を後継者に望む。

もし、(かな)えば、逆に呂一族は粛清(しゅくせい)され兼ねない。

個人的な、一時(いっとき)の感情ではない。

一大事だったのである。



この後、どうなったか?

それは「チャイナ三大悪女」の筆頭・呂太后をご覧あれ(笑)


【解説】

〇呂太后(りょたいごう)・・・劉邦の正妻の呂雉(りょち)。皇帝が亡くなった後は本来「太后」だが、呂后(りょごう)とも称されている。

箕箒(きそう)(しょう)・・・「何の取柄もないが、下女を一人雇ったと思って、妻にして下さい」の意。



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