春暁(しゅんぎょう) 作:孟浩然
【還暦ジジイの説明】
「春眠暁を覚えず」で有名なこの詩は、孟浩然の五言絶句。
彼は、杜甫や李白と共に盛唐を代表する詩人です。
この時代、漢文を学び詩文を詠む様な人は、大変頭が良く、九割九分仕官の道を選ぶ。
しかし、孟浩然はその登用試験である科挙に合格することができず、生涯を放浪の旅に生きました。
当然、生活は逼迫していたでしょうし、高名な詩人とはいえ、屈辱を受けることもあったでしょう。
よって、最後の句は悲哀を詠ったものだろう、と言われています。
【原文】
春暁 作:孟浩然
春眠不覺暁 處處聞啼鳥
夜来風雨声 花落知多少
【読み下し文】
春暁 作:孟浩然
春眠 暁を 覚えず
処処 啼鳥を 聞く
夜来 風雨の 声
花 落つること 知る 多少
【現代口語訳】
春の眠りは心地がよく、夜が明けるのも気づかないほどだ。
あちらこちらから鳥のさえずりが聞こえてくる。
そういえば昨夜は風雨の音がひどかった。
きっと多くの花が散ったことだろう。
【意訳】
短い詩は、色々な解釈ができる。
春の麗かな陽射しを浴びて、遅い眠りから覚める。
うわあ~、のんびりしていて、自由で、いいなあ。
人間は、こんな風に大らかで、余裕がないと、駄目だよなあ。
世俗に揉まれ、傷つき傷つけ、汚れまくった人間なんて、いやだよなあ。
と、読者側から詠んだままの解釈。
しかし、
ああ、私はこんなにのんびりしていて良いのかなあ。
高士と言えば聞えは良いが、官吏登用試験に落第して、仕事もないプー太郎。
昨夜散ったであろう花と同じ様に、私もこのまま朽ちていくのかなあ。
と、作者側からの解釈。
後者は、作者・孟浩然の境涯を知ってのこと。ふふふ
【解説】
詩形は五言絶句。 暁・鳥・少が韻を踏んでいる。
【語彙解説】
〇盛唐(せいとう)・・・唐代300年を四つに区切り、最初の90年ほどを「初唐」、次の55年間(玄宗皇帝の時代)を「盛唐」。
次の70年、唐の王朝は空前の繁栄を迎え、漢詩も最盛期、これを「中唐」。最後の70余年を「晩唐」と呼ぶ。
〇科挙(かきょ)・・・隋から清朝まで約1300年間続いた官僚登用試験。合格率は極めて低く、五十歳代で合格しても若いと言われた。
〇五言絶句(ごごんぜっく)・・・漢詩体の一つ。五文字一句で全部で四句になる形式の近体詩。
チャイナ、初唐に形式が定まり、以後盛んに行なわれた詩形。「五絶」とも。
〇春眠(しゅんみん) ・・・ 春の眠り。
〇不覚暁(あかつきをおぼえず) ・・・ 夜が明けたことに気付かない。
〇処処(しょしょ) ・・・ そそかしこ。いたる処。
〇啼鳥(ていちょう) ・・・ 鳥の鳴く声。
〇夜来(やらい) ・・・ 昨夜。
〇知る多少(しる たしょう) ・・・ どれほどあるか知らない。言外に多いだろう、という意味を含む。
【人物 略歴】
〇孟浩然(もう こうねん、西暦689年~740年、没52歳)
盛唐の代表的な詩人。襄州襄陽の人。
「春暁」の作者として知られる。自然を歌った詩に傑作が多い。
若くして任俠の徒と交わり諸国を遍歴するが、長安に出て王維・李白・張九齢らと交流を持つ。
玄宗の世となってから長安に赴き仕官しようとするが、科挙に及第していなかったので叶わなかった。
しかし、朝廷への推薦をした韓朝宗との約束をすっぽかしてを駄目にしたり、いざ玄宗の前に出ても不平不満を詩にして
玄宗を怒らせるなど、立身出世には関心が薄かったようにもみえる。