ちょっと一服  その94 乗馬 その2            2024.09.26


 知人に、「今、乗馬に()ってんねん」と話すと、

 「へえ~っ?怖くないですか?」

 「噛みつかれませんか?」

 「蹴られるんじゃあないですか?」

 「落馬したらどうするんですか?」

 と、矢継(やつ)(ばや)に質問を浴びせて、驚く。


 


 (たし)かに!

 そうだ!思い出した。

 私も同じ印象だった。

 なのに、何故、突然、「馬に乗りたい!」と云う衝動に駆られたのだろうか?

 ずっと考えていて、その原因らしきものに思い至った。


 二年前、孫が自転車に乗れる様になって喜ぶ姿だ。

 


 彼は兄から譲られた自転車に、いつまで経っても乗ろうとしなかった。

 自ら挑戦出来なかったのだ。

 私は、嫌がる彼を公園に連れて行き、毎日、特訓した。

 特訓とは言っても、ただ、見守っただけ。

 そのうちに、「お祖父ちゃん、行こうや」と自ら誘って来る様になった。

 やはり、乗れる様になりたいのだ。

 最初は二つの補助輪を付け。

 (しばら)くして、一つに。

 そして、補助輪なしで。

 (ようや)く、一ト月ほどで、乗れる様になった。

 彼は自信満々、意気揚々と、とても楽しそうだった。

 一ヶ月間の苦労なんて、すっかり忘れている。

 それでいいのだ、と、思う。


 恐怖と感じる相手に立ち向って行く。

 大人から見れば恐るるに足りない相手でも、彼は、ヒグマと闘うに近い勇気が要ったのだ。

 家族とカラオケを一曲歌う程度だろう事でも、彼は、10人の審査員と大観衆の前で歌うに等しい心境だったのだ。

 それに、孫は、打克(うちか)った。


 嗚呼(ああ)

 あの達成感溢れる輝いた顔は、(うらや)ましいなあ~

 と、思った記憶がある。

 その嫉妬が、きっと、私の「馬に乗りたい!」と云う心境に投影されたに違いない。


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