ちょっと一服  その87 咫尺を弁せず              2024.05.21



「咫尺(しせき)を弁(べん)ぜず」と読みます。

しせき?

ああ、歯にくっ付くやつね?

ちゃう!ちゃう!あれは、歯石!(笑)


「咫尺」の意味は、距離が非常に近いこと。

「咫尺を弁ず」は、

「視界がきかず、ごく近い距離でも見分けがつかない。」

と解釈するらしいのだが・・・


「咫尺」という熟語の後に、なぜ、「弁ず」とするのか?

「短い距離を語らず」???

「距離を語らず」なら、なんとなく解る。

私は納得が行かない。


「咫」は8寸、「尺」は10寸のことなので、

「26cmや33cm足らずのことで喧嘩するな!」

と、解釈し、

何十億円もの遺産相続で、高々十万円や二十万円で血肉を争う、と言うような場面に用いるなら解る。


咫尺は、漢検1級の配当漢字。

漢検1級に合格する積りなら、こんなことに(つまづ)いてないで、鵜呑(うの)みにし、次の練習問題に取り組む方が効率が良いのだが、私は素通り出来ない。


しかし、漸く納得が行った。

「弁ぜず」を「語らず」と理解していたのだが、誤りだった。

「区別しない」の意味だった。

これなら、理解できる。


ならば「弁ず」と「せ」を濁音で読まず、「弁ず」と清音で発音するべきではないか。

「せ」は英語 Do の「~する」に相当し、「せず」は「~しない」と理解できる。

しかし、「ぜ」とすると「語らず」だけの専属的な意味合いが強い。


各種辞書には、両方散見されるが、私は、「弁ず」と清音を支持する。


【語彙説明】

〇咫尺(しせき)を弁(べん)

「咫尺」の意味は、距離が非常に近いこと。

「咫」は古代チャイナ・周の制度で8寸(約26cm)、「尺」は10寸(約33cm)。

どちらも短い距離のたとえとして用いられる。

「弁ず」は「区別がつかない」という意味。


例えば、すぐ隣にいる友達が、今、どんな気持ちでいるのか全然気づかなかったりすることがある。それを「咫尺を弁せず」って表現する。
これは、物事や人との関係が目の前に在っても、それに気付かないで居るっていう戒めで、もっと周りに注意を払ったり、大切にしようって云う教訓。


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