ちょっと一服  その85 鶴の恩返し その1              2024.03.13



私は脱輪を過去三度やった。

 


いずれも、自分では何も出来ず、茫然自失(ぼうぜんじしつ)(てい)


そこへ通り掛かりの男性に、助けて貰った。

三度、とも。


感謝感激、後日、お礼を、と、伝える。

皆、顔の前で手を振って、要らない、と仰るのである。

 


見ず知らずの私を助けておいて、お礼なんて、要らない、と。

三度とも!

毎回、ですよー!


もう、感動!

そして、颯爽と立ち去る。


 

渡世人みたいでしょう!?(古いか)


キャーッ!!

でしょう?!


心の中で、有難うございます、と、手を合せる。


えっ!?

でも!?

私は、どうしたら、良いんだ!?

この恩を!

この好意を!

私は、どうしたら、返せる!?



きっと、皆さんは、答えをご存じでしょうねえ~

ご経験あるでしょうねえ~


答えは、必然ですよ、ねっ!


答えは!

他の見知らぬ人に、親切にする!!

これですよ!これ!

バトンタッチ!


嗚呼(ああ)!!

こんなに、他人(ひと)を幸せにする好意が、あるでしょうか?

「無償の愛」って呼ぶんですかね。


素晴らしい(かな)、人間!

素晴らしい哉、人生!


でしょう?



【追記】


この話を或る女性にしました。

彼女は、「うん!うん!ある!ある!」

と、眼を輝かした。

そりゃそうでしょう。

長年、自動車(クルマ)に乗ってりゃあ。

彼女も、自身の経験を語った。

話は、盛り上がった。


話しているうちに・・・


うん?

ちょっと、奇怪(おか)しい。


案の定。

ウフフ、と、悪戯っぽい眼をして、微笑むのである。


助けて貰った彼と肉体関係を持った、と、白状したのである。

明るく(笑)

お母さんも、凄く良い人だった、と、弾けて説明するのである。

あはは、(たし)かに、良いお母さんだ。

しかし、情事は、それ一回きり。

あはは・・・は

・・・・・・

軽はずみな情事の話には、

「あのなあ!」と、私は彼女を(たしな)める。

笑いながら。

しかし、今回だけは、口籠(くちごも)ってしまった。


(いや)だな~

厭ですよね~

鶴の恩返しって、このこと?

まさかね。

あはは・・・は


これ、私の知らない、彼女が二十代の時期(とき)の話です。


【語彙説明】

〇茫然自失(ぼうぜんじしつ) ・・・ あっけにとられたり、あきれ果てたりして、我を忘れること。気が抜けてぼんやりとしてしまうこと。

〇無償の愛(むしょうのあい) ・・・ 見返りを求めずに相手のためを思う気持ちや行動。



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