その25 「泰然自若」 後編
前回、「泰然自若」を「体得」した、と書いた。
「知る」や「識る」を超えて、再度直面したときに落ち着いて行動できることを「体得」と表現する。
そのコツは何かと云うと、基準を持つことである。
「知る」や「識る」のレベルでは、実際に直面すると、周章狼狽、頭の中は真っ白。
基準なんて吹っ飛んで、跡形もなくなる。
やはり、何度も苦汁を舐め、経験してこそ、初めて身に付く。
将棋の羽生善治永世七冠が、昔、
自分を見習えよ、とばかりに、自慢たらしく揮毫なんてしない。
今目標にしていること、出来ていないことを、書く。
そうなんですね~
何度も真剣勝負を経験したあの羽生さんですら、「泰然自若」の実践が難しかった。
ならば、我々凡人が、実践できなくても、不思議でも何でもない。
経験し、挫けず反省し、また挑戦する。
これあるのみ!
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プロ棋士が「泰然自若」とできず、優勢だった将棋を逆転負けするときの精神状態。
序盤中盤を優勢に進めながら、終盤に入って追いつかれる。
「あんなに良かったのになあ」と後悔を引き摺る。
冷静に見れば、実際は互角か、少しこちらが優勢な局面である。
ところが、考慮時間も残っているにも拘らず、集中できず、最善手を探り当てられない。
焦る。
最善手を探り当てられないのではなく、目が見えなくなっているのだ。
時間ばかり経って、手が見付からない。
ますます、焦る。
相手は、形勢が元々悪かったので、儲けものとばかり、鼻唄交じりに意気揚揚としている。
こちらの心を見透かした様に、決断良くビシビシと指してくる。
それが分かるだけに腹立たしい。
更に、局面に集中できなくなる。
そうすると、指してはいけない悪手が良さそうな手に見えてくるから、あら!不思議!
そして、悪魔に魅入られた様に、悪手を選んでしまうのだ。
逆転負け!
この様に逆転負けの大きな要因は、パニック状態の心理にある。
プロ棋士は皆、こんなこと百も承知。
両方の立場を幾度となく経験している。
それでも、自分の心理を制御するのは、難しいのだ。
【解説】
泰然自若(たいぜん じじゃく)・・・心に余裕があって落ち着いて、どんなことに対しても常に冷静な様子。
周章狼狽(しゅうしょう ろうばい)・・・予想していなかったことが起きて、ひどく慌てること。
羽生善治(はぶよしはる)のプロフィール。(詳細 wikipedia)
将棋界が実力制になって約80年、史上最強の棋士。
将棋界七大タイトル(名人・竜王・王位・王将・王座・棋聖・棋王)の全て永世称号を有する。史上唯一人。
タイトル獲得数99期は歴代最多。通算対局数は2000局を超え、通算勝利数も歴代最多の1434勝(更新中)。
そして、何より史上最強の根拠は、通算勝率が7割を超えていることだ。
タイトルを1期獲得することもできない棋士が8割。1年間だけ勝率7割を記録することも困難な中、この実績である。
藤井聡太君(棋聖・王位)が将来羽生さんを抜く可能性は大いにあるが、最短でも15年先の話である。