ちょっと一服  その101 臍(ほぞ)を噬(か)む その1             2025.1.26


約三十年前、東京出張から帰阪の新幹線、グリーン車両。

 本当は、グリーン車両に乗っちゃあいけない身分の社員だったんで・・・。後日、経理部長から叱られました。あははは

真ん中の二人座席で、私は通路側、窓側に初老の男性が、後から来た。

無茶苦茶に、怖い顔つき。

もしかしたら、ヤクザかなあ~、と。

しかし、彼は礼儀正しく、「失礼」と声をかけて座ったので、安堵した。

 ガラガラの車両なのに、みどりの窓口の担当者は、何で別々の座席にしなかったのか、不思議。

ところが、私は居眠りしてしまった。


私の記憶では、窓側の男性は、三度トイレに立った。

名古屋の頃か、それが三度目だったと思う。

彼は、眠っている私の胸を小突いたらしい。

目を醒ました私は、事態を把握するのに、数秒かかった。

彼は怒りを露わにして、「どけ!」と言った ・・・ と思う。


私は戻ってきた彼に、「あんた何処で降りるんや」と、訊いた。

彼は「京都や」と答えた。

その後、私は、何の意図もなく、黙っていた。

(あと)台詞(せりふ)を考えていたのと、相手がヤクザだったら、どうされるだろう、と(おび)えていたのだ。

ところが、彼は、私以上に恐怖を感じていたらしい。

”黒革の手帳”に楷書で自分の名前を記して、私に示した。

 掌より大きいサイズの手帳1ページを丸々割いて


なんと、その男性は、超有名なベストセラー作家だったのだ!


キャーッ!!と、私は内心、小躍りしたが、表情を変えないように努めて、

「知らん!」と嘘をついた。


男性は、「知らんか~」と、落胆して、手帳を仕舞った。

それから数分間、二人ともに無言だった。

彼は(たえ)られなくなったのか、まだ京都には数分以上あったにも拘わらず、「失礼」と言って、そそくさと立去った。


今になってみると、馬鹿なことをしたものだ、と、(ほぞ)()む。

(くだ)らない見栄(みえ)なんか捨てて、

キャーッ!大ファンなんです!そのサイン下さい!

と、笑えば良かった。

気分の悪いことをしたものだ。

彼も反省していただろうに・・・ホント

申し訳ないことをした。


さて、この超有名なベストセラー作家とは、誰か?

ジャンルは、鉄道ミステリーです。推理作家。

ですから、答えの名前は、次回、書きます。

あははは


【語彙説明】

〇臍(ほぞ)を噬(か)む ・・・ <『春秋左伝』荘公六年から。自分の臍(へそ)をかもうとしても及ばないところから>

 後悔すること。すでにどうにもならなくなったことを悔やむこと。

〇噬(か)む ・・・ かむ。かみつく。くう。食いつく。


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