春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その29


 ()(ことわり)知らば女房たるもの何ぞ焼くに及ばんや。

 おのれ袖子(そでこ)が床の上手に打込みて、

懐中(ふところ)都合よき時は四日五日と遠出をつゞけ、湯治場(とうじば)の湯船の中、

また海水浴には浅瀬の砂の上と、

(ところ)きらはず淫楽のさまざま仕盡(しつく)して、飽きた揚句の浮気沙汰に、

切れるの切れぬとお(さだまり)のごたごた、

一時はきれいに片をつけしが、いつか焼棒杭(やけぼっくい)に火が付けば、

当座は初にもまさり稀有(けう)(あじはひ)

昼あそびのお客が離座敷へひたるを見れば、

待合家業のかひもなく、無闇と気をわるくし、

()いた座敷へそつと床敷きのべる間も待ちきれず、

金庫の扉を楯に帳場で居茶臼(いちゃうす)の乱行、女中にのぞかれしも一二度ならず。



 【解説】


〇袖子(そでこ)・・・・・・自分の女房が芸者の時の呼び名。現在は「お袖」と呼ぶ。

〇居茶臼(いちゃうす)・・・性技の「座位」の一つ。「帆掛け」「時雨茶臼」などもある。

 


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