春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)
全文 その28
気の合つた同志、知らず馴染を重ねしも無理はなし。
然りと雖も、女一人わがものになしおほせて、
床の喜悦も同じ事のみ繰返すやうになりぬれば、
又折々別の女ほしくなるは男のくせなり。
三度の飯は常食にして、佳肴山をなすとも、八時になればお茶菓子もよし。
屋台店の立喰、用足の帰り道なぞ忘れがたき味あり。
女房は三度の飯なり。
立喰の鮓に舌鼓打てばとて、三度の飯がいらぬといふ訳あるべからず。
家にきまつた三度の飯あればこそ、間食のぜいたくも言へるなり。
【解説】
○佳肴(かこう) ・・・ うまい酒のさかな。おいしい料理。
○鮓(すし) ・・・ 現代では「寿司」「鮨」と同じ。
「鮨」は、今で言う塩辛のようなものを指す。
「鮓」は、今のなれずし、則ち、川魚を塩と米で発酵させた保存食を指す。
「寿司」という漢字は縁起を担いで「寿(ことぶき)を司(つかさどる)」という、江戸時代の人々が考えた当て字。
現在では「寿司」が最も一般的です。
「回転ずし」などで、豚肉、牛肉、サラダ、てんぷら、卵焼きなどなど、魚や海の幸ではない物もネタとして扱われている。
こうなると、「鮨」「鮓」は適当ではなく「寿司」と書く方が適切となる。