春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その24


 此方(こなた)今方(いましがた)よりすこし好くなりかけて来たところ、

此分(このぶん)にて気の行くまで行ひては、それこそ相手のつかれ(さぞ)かしと、

流石(さすが)気の毒になり、其儘(そのまま)相方、拭きもせずうとうと一眠り。


 目が覚めて顔見合せ、互ににつこり笑ひしが、

其時(そのとき)女何と思うてか、小声にて、あなたも行つてときく。


 どうだつたかと笑へば、あなた人ばかりやらして御自分は平気なのよ、

ほんとに人が悪い、と内股へ手を入れる(ゆえ)其儘(そのまま)いぢらせて、

もう駄目だらうと言へば、大丈夫、あなたもちやんとやらなくちやいやよ、

私ばかり何ぼ何でも気まりがわるいわ、と(やわらか)鈴口を指の先にて()でる工合、

この女思ふに老人(としより)の旦那にでもよくよく仕込まれた床上手と覚えたり。


 【解説】


〇今方(いましがた/いまがた)・・・たった今。ついさっき。

〇嘸かし(さぞかし)・・・「さぞ」を強めていう語。さだめし。さぞや。

〇鈴口(すずぐち)・・・陰茎の先の方。


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