春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その23


 お袖兎角(とかく)する中、茶臼にて脆くも三度目の気をやりしが、

此方(こなた)はもともと燕返しの無理なれば、一向平気にて、

今度こそ我慢せずともなかなか行きさうな気もせねば、

まづ入れたまゝにて横になし、女の片足を肩へかつぎ、

おのれは身を次第に後にねぢ廻して、半分後取(うしろとり)の形、

抜挿(ぬきさし)電灯の光によく見ゆれば、

お前も見て楽しみなと知らすれど、

女は泣き脹らせし眼つぶりしまゝにて、

「又いゝのよ、どうしたんでせう、あなたあなた、アレわたしもう身体中が」

と皆まで言ひ得ず四度目の気をやり始め、

ぐツと突き込まれる度々、ひいひい言つて泣続けしが、

突然泣き止むと見れば、

今にも息や絶えなんばかり、肩にて呼吸をつき、

両手は両足もろともバタリと投出し、濡れぼゝさらけ出して恥る風もなし。


 【解説】


〇お袖(おそで)・・・筆者の女房。元芸者で「袖子」。

〇茶臼(ちゃうす)・・・性技の座位の一つ。この場合、対面座位であろう。

 

〇燕返し(つばめがえし)・・・性技の後背位の一つ。男性が女性の片足を後方にあげさせ、女性が背を反らせる。

 
   燕返し

〇後取(うしろとり)・・・背面からの意で、この場合、「松葉崩し」の姿勢ではないか。

 
   松葉崩し

〇濡れぼゝ(ぬれぼぼ)・・・「ぼぼ」は女性の陰部を指す。


 次ページ   前ページ      はじめに    TOP-s