春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その20


 髪はばらばらになつて身をもだゆるよがり方、

こなたも度を失ひ、仰向(あおむけ)茶臼(ちゃうす)になれば、

女は上よりのしかゝつて、

続けさまにアレアレまたいくまたいくと二番つゞきの淫水どツと浴びせかけられ、

(ここ)だけよがらせて遣ればもう思残(おぼしのこ)りなしと、(しずか)に気をやりたり。


 さて()く段になりて、女は用意の紙枕元にあるを知れども、

手は届かず、(その)身は茶臼の最中、

長襦袢(ながじゅばん)うしろにすべり落して、

腰巻さへ()がれし丸裸、

流石に心付いては余りの取乱しかた今更に恥かしく、

顔かくさうにも隠すべきものなき有様、

せん方なく男の上に乗つたまゝにて、

顔をば男の肩に押当て、大きな溜息つくばかりなり。


 【解説】


〇ばらばら・・・バラバラ。髪の毛が乱れた様子。

〇仰向の茶臼(あおむけのちゃうす)・・・性技四十八手「筏茶臼」(いかだちゃうす)か、「帆かけ茶臼」のことか。

 
  帆かけ茶臼

〇思残り(おぼしのこり)・・・不満足のままに物事を終え、その事を気にする。

〇せん方なく(せんかたなく)・・・どうしようもない。仕方なく。


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