春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その17


 かうなつては何をするも此方(こつち)のものと思へど、

(なお)大事を取る()かずと、口など吸はず、

(ただ)腰を早めて様子を(うかが)ふに、(たちま)がつくり枕はづして、

それなり直さうともせぬにぞ、もう占めたりと、

腰を使ひながら半身起こして、手早く長襦袢(ながじゅばん)の前左右にかき開き、

親指の腹にて急所を攻むれば、袖子(そでこ)たまらぬといふ風に身をもがきて、

(たちま)ちよがりの一声(いっせい)、思はず高く発すると心付いてか、襦袢の袖にて顔を(おお)ふ。


 【解説】


〇大事をとる・・・舌を噛まれない様に用心すること。

〇がつくり ・・・ ガックリ。肩を落として、落胆すること。

〇占めた(しめた)・・・「シメタ!」。事がうまく運んで喜ぶときに発する語。しめしめ。

〇急所(きゅうしょ) ・・・ この場合は、陰核。クリトリスのこと。


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