春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)
全文 その16
さうなれば肌襦袢も腰巻も男の取るにまかせ、
曲取のふらふらにしてやればやる程、嬉しがりて、
結立の髪も物かは、骨身のぐたぐたになるまでよがり盡さねば止まざる熱すさまじく、
腰弱き客は、却つてよしなき事、仕掛けたりと後悔先に立たず、
アレいきますヨウといふ刹那、
口すつて舌を噛まれしドチもありとか。
扨も袖子、指先にていぢられてゐる中、
折々腰をもぢもぢ鼻息次第に烈しく、
男を抱く腕の力の入れかた初めとは大分ちがつた様子、
正しく真身に気ざせし兆と見てとるや、
入れたまゝにてツト半身を起して元の本取の形、
大腰にすかすかと四五度攻むれば、
女首を斜に動し、やがて両足左右に踏み張り、
思ふさま股を開いて一物をわれから子宮の奥へ当てさせる様子。
【解説】
〇曲取(きょくどり)・・・正常でない体位で男女が性行為をすること。
〇アレいきますヨウ・・・性的快感の絶頂の際の叫声(よがりごえ)。
〇ドチ・・・「どじを踏む」「どじな野郎だ」の「どじ」。しくじる、失敗する。馬鹿な、間抜けの意。
〇本取(ほんどり)・・・「本間取」「本手」とも。性交の正常位のこと。
〇大腰(おおごし)・・・性交したまま、女が大きく腰を回すこと。