春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その14


 このところ(しばら)くして、女もし此儘(このまま)に大腰つかひ続けなば、

いよいよほんとに気ざし出すと気付きてやゝ少し調子をゆるめにかゝるを窺ひ、

此方(こなた)は又もや二三度夢中の(てい)にて深く()るれば、

女はこの度こそはと再び早合点してもとの如く大腰になるを、

三四回の抜挿に調子を合せし後ぐツと一突深く入れて高く抜くはづみに、

わざとはづして見せれば驚いて女は男の一物指先にて入れさせる、

それにつれて此方も手をさし込み、毛がはいりはせぬかあぶないよと、

(また)抜いて、この度はわれを我手にて入れるを潮(しほ)に、

そのあたり手暗(てくらが)の所さがす振にて、女の急所指先にていぢり掛れば、

此の場になりて、そんな悪戯してはいやよとも言はれず、

だまつて男のなすまゝにさせるより外なきは、最初より此方の計略、

否応いはさず初会の床にしたゝか気をやらせて見せる男の手なり。


 【解説】


〇大腰(おおごし)・・・性交したまま、女が大きく腰を回すこと。

〇一物(いちもつ)・・・男根。ペニス。

〇毛がはいりはせぬか・・・陰毛で女陰の柔らかい部分を傷つかぬための用心。

〇潮(しほ)に・・・とき。機会。時期。チャンス。

〇手暗り(てくらがり)・・・自分の手に光が遮られて手元が暗くなること。

〇急所(きゅうしょ)・・・陰核(クリトリス)のことか

〇初会(しょかい)・・・「初会」は同じ芸者や遊女に初めての客。「裏を返す」は二会(回)目。「馴染」は三会(回)以上あった客。


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