春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)
全文 その13
遊びに馴れぬお客ならば、大抵この辺にて、
相手の女もよがり出せしものと思込み、
意気地なく往生遂ぐるなるべし。
然れども兵に馴れたるものは、
敵の計略を利用して、却つてその虚を衝く。
さても女、早く埒を明けさせんものと急りて腰をつかふ事激しければ、
おのづとその身も幾分か気ざゝぬわけには行かぬものなるを、
此方は時分を計り、何もかも夢中の体に見せかけ、
片手に夜具刎のけるは、後に至つて相手を裸になし、
抜挿見ながら娯しまんとの用意なり。
【解説】
〇よがり ・・・ 女が、性交中、快感の絶頂に達すること。
〇往生遂ぐる(おうじょうとぐる)・・・男の方が先に射精してしまう。「行く」「逝く」こと。
〇抜挿(ぬきさし)・・・性交中のピストン運動のこと。
〇埒を明けさせる(らちをあけさせる)・・・男を射精させて、ことを終らせること。