春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その12


 おのれかくの如く余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)として横取(よこどり)に行ふことまた稍暫(ややしばら)くとなれば、

いかほど御義理一遍唯暫時(おぎりいっぺんただざんじ)貸すばかりのつもりでも、

そこは生身(なまみ)の是非もなく、夜具の中()すやうに熱くなるにつれ、

開中(かいちゅう)また(うるお)ひ来りて、鼻息もすこしづゝ荒くなるにぞ、

始めは四度目五度目位、後には二度目三度目位にぐツと深く突入れ、

次第々々抜挿を激しくすれば、

女はもうぢきお役がすむものと早合点して、此の機はづさず、

一息に(らち)をつけてしまはうといふ心なるべし、

両手にて男の胴をしめ、(にわか)にはげしく腰をつかひ出せば、

夜具のすれる響、枕のきしむ音につけて、

伊達巻(だてまき)のはしもいつか(そら)()けたり


 【解説】


〇横取(よこどり)・・・男女が共に側臥(そくが)して性交すること。


  


〇開中(かいちゅう)・・・「開」は「ぼぼ」と読み、女陰のこと。よって開中は膣の中のこと。

〇抜挿(ぬきさし)・・・性交中のピストン運動の事。

〇埒をつけて(らちをつけて)・・・男に射精させて終了させること。

〇いつか空解けたり(いつかそらとけたり)・・・いつの間にか、むなしく(帯が)ほどけた。


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