春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その10


 いかに売女(ばいぢょ)なりとて、この場合にいたりては、

男の顔まともに下から見上げるわけにも行かぬと見えて、

尋常(じんじょう)に目をつぶり、男の抜挿(ぬきさし)につれ腰をつかふ事、(やや)(しばら)くなり。


 時分をはかりて酒を飲みすぎたせゐか、これではあんまり長くかゝつて気の毒なり、

形を替へたらば気もかはるべしと、独言(ひとりごと)のやうに言ひて、おのれまづ入れたなりにて横に身をなぢれば、

女も是非なく横になるにぞ、上の方にしたる片手遣場(やりば)なきと見せかけて、

女の尻をいだきみるに堅ぶとりて(まる)くしまつた肉付無類なり。


 【解説】


〇売女(ばいじょ)・・・芸者など身を売る女のこと。

〇抜挿し(ぬきさし)・・・性交中のピストン運動のこと。


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