春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その9


 (その)首尾いかにを回顧するに、

女はまづ帯解いて長襦袢(ながじゅばん)一ツ、伊達巻(だてまき)(はし)

きツと〆直して床に入りながら、

この一夜のつとめ浮きたる家業の是非もなしといはぬばかり、

長襦袢の裾さへ堅く引合せてゐるにぞ、

此の女なかなか勤めに馴れて振る道もよく覚えてゐるだけ、

一ツ破目はづさせれば楽しみ(また)一倍ならんと、

()のまゝ此方(こちら)から手は出さず、至極さつぱりした客と見せかけ、

何ともつかぬ話して、時分をはかり鳥渡(ちょっと)片足を(むかう)へ入れ、

起き直るやうな(ふり)すればそれと心得る袖子(そでこ)

手軽に(やく)をすません心にて、すぐにのせかける用意する(ゆえ)

おのれもこれがお客のつとめといふ顔付にて、

なすがまゝに、但し口も吸はねば深くは抱きもせず、

元より本間取(ほんまどり)にて(しずか)抜挿(ぬきさし)なしつゝ、道具のよしあし、

肌ざはり、肉付(にくづき)、万事手落なく瀬踏(せぶ)みするとは女(さら)にも気がつかず。


 【解説】


〇振る道(ふるみち)・・・女が男を振る方法。男を冷淡に配(あしら)う方法。

〇袖子(そでこ)・・・芸者。後に結婚し主人公の女房となり「お袖」と呼ぶ。

〇本間取(ほんまどり)・・・本手(ほんて)とも言う。性技の正常位のこと。

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〇抜挿(ぬきさし)・・・性交中のピストン運動の事。

〇道具(どうぐ)・・・女陰(にょいん)。女の性器。膣。


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