春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その6


 老はまことや顔形(かほかたち)のみならず、心までみにくゝするぞ是非もな()

 遊びも()く老ひ来りては振られぬ先からひがみ根性の廻気(まわりぎ)早く、

言はでもよき厭味(いやみ)皮肉を言並べ、

いよいよ手ひどく振つけられると知れば、大人気なく怒気を発し、

(あるい)はますます意地悪く、押強く出かけて恥をわするゝなり。


 たまさか運よく持てることありても、無邪気にうれしがることなく、相手の女をぐつと見下げて(いや)しむか、

さらずばこいつ何かねだる下心かと、おのがふところの用心にかゝるなり。

 絵にも歌にもなつたものにあらず。



 【解説】


〇廻気(まわりぎ)・・・余計なことに気をまわし過ぎること。


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