春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その5


 二十五過ぎ三十に及べば、追々うぬばれつよくなりて、

馴染は馴染色は色浮気は浮気と、いろいろに段をつけ、

見るもの皆一二度づゝ手が出して見たく、(こころ)(さら)におちつく暇なく、

衣裳持物にも心をつくし、いかなる時も色気たつぶり、

見得と意地とを忘れざる故、さほど浅間しい事はせずにすめども、

(やが)て四十の声聞くやうになりては、

そろそろ気短に我欲(がよく)(ようや)(さかん)になるほどに、

見得も外聞もかまはぬ(いや)しき(おこなひ)

(かえつ)て分別盛りと見ゆる此年頃(このとしごろ)より平気でやり出すものぞかし。


 【解説】


〇馴染は馴染(なじみはなじみ)・・・「初会」は同じ芸者や遊女に初めての客。「裏」や「裏を返す」は二会(回)目。「馴染」は三会(回)以上あった客。

〇色は色(いろはいろ)・・・「色」は情夫情婦の意。ここは「色女」(情婦)の略。

〇浮気は浮気(うわきはうわき)・・・「色」はやや長く続く女。「浮気」は一時的な女。軽い遊び。


 次ページ   前ページ      はじめに  TOP-s