春本版『四畳半襖の下張』(よじょうはんふすまのしたばり)


 全文 その4


 人様のことは言はずもあれや、つらつらおのれがむかしを(かえりみ)るに、

二十代は唯わけもなきことなり。

 思詰めて死にたいと泣きしも、後日にいたれば何の事やら夢にも残らず。


 但し、若きころは大抵女一人にて馴染(なじみ)重ねしものを天にも地にもと、

後生大事にまもるなど、案外諸事気まじめなり。



 【解説】


〇馴染(なじみ) ・・・ 「初会」は同じ芸者や遊女に初めての客。「裏」や「裏を返す」は二会(回)目。「馴染」は三会(回)以上あった客。


 次ページ   前ページ      はじめに  TOP-s