『改暦辨』 大陽暦と大陰暦との辨別  (かいれきべん)        著:福澤諭吉 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


 福沢諭吉は、「大陽暦」「大陰暦」としているが、現在では、「大」ではなく「太」を用いて、「太陽暦」「太陰暦」と書いている。


【本文】 註:旧かな遣い、正漢字で書かれています。


  大陽暦(たいやうれき)大陰暦(たいいんれき)との辨別(べんべつ)


 このたび大陰暦を(やめ)て大陽暦となし、明治五年十二月三日を明治六年一月一日と

(さだ)めたるは一年(にはか)に二十七日の相違(さうゐ)にて世間(せけん)にこれを(あやし)む者も

(おほ)からんと思ひ、西洋の書を調べて()(くに)(おこな)はるゝ大陽暦と、古來(こらい)支那(から)

日本等に(もちふ)る大陰暦との相違を示すこと()(ごと)し。


<<中略>>


 これを(たとへ)ばあらまし三百六十五文拂(はら)ふべき借金を、毎月二十九文五分づゝの濟口(すみくち)にて十二箇か月(はら)へば一年に(およそ)十一文づゝの不足あり。

 十一文づゝ二年半餘(はんあまり)(とどこ)ふらば大抵三十文(ばかり)引負(ひきおひ)となるべし。

 閏月(じゆんげつ)(すなわ)ちこの三十文の引負を一月にまとめて拂ふことゝ知るべし。


【語彙説明】


〇大陽暦/太陽暦(たいやうれき/たいようれき) ・・・ 地球が太陽の周りを回る周期(太陽年)を基にして作られた暦(暦法)。1年の日数を1太陽年に近似させている。ユリウス暦や、現在、世界の多くの地域で使用されているグレゴリオ暦は、太陽暦の1種。

〇大陰暦/太陰暦(たいいんれき) ・・・ 月の満ち欠けの周期を基にした暦(暦法)。その周期を朔望月(さくぼうげつ)といい、1朔望月を1月とする。なお、「太陰」は「月(天体)」の意味である。陰暦(いんれき)とも言う。「太陽暦」(陽暦)の対義語。

閏月(うるうづき)などを入れて季節のずれを調整する「太陰太陽暦」と、季節のずれを調整しない「純粋太陰暦」がある。単に「太陰暦」と言った場合、日本や中国などの東アジアでは通常は「太陰太陽暦」を指し、イスラム圏などでは「純粋太陰暦」を指す。

〇二年半餘(にねんはんあまり) ・・・ 2年6ケ月あまり = 約2年6ケ月

〇支那(から/しな)・・・唐の時代の日本呼び「から」。チャイナ。現・中華人民共和国

〇濟口/済口(すみくち/すみぐち)・・・江戸時代の民事裁判の和解のこと。「すみくちしょうもん(済口証文)」の略。

〇引負(ひきおひ/ひきおい)・・・借金。負債。



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