『銭形平次捕物控』 「紅い扱帯」 一  (あかいしごき)  著:野村胡堂 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


 和服何て、旅館の浴衣ぐらいしか着たことないので、さっぱり解りません。

 勉強しましょう。


【本文】 註:旧かな遣い、正漢字で書かれています。


 小網町二丁目の袋物問屋丸屋六兵衛は、とうとう嫁のお絹を追い出した上、(せがれ)の染五郎を土蔵の二階に()()めてしまいました。

 理由はいろいろありますが、その第一番に挙げられるのは、染五郎は跡取りには相違ないにしても、六兵衛のほんとうの子ではなく、藁の上から引取った甥で、情愛の上にいくらか(かみしも)を着たものがあり、

第二番の直接原因は、お絹の里が商売の手違いから去年の暮を越し兼ねているのを見て、ツイ父親に内証で五百両という大金を染五郎の一存で融通したことなどが知れたためだと言われております。

 しかし、もっともっと突込んだ本当の原因というのは、染五郎とお絹の仲が良過ぎて、ツイ舅の六兵衛の存在を忘れ、

五十になったばかりの独り者の六兵衛は、筋違いの嫉妬と、無視された老人らしい忿怒(ふんぬ)のやり場に、若い二人の間を割いたとも取沙汰されました。

 丸屋六兵衛のしたことは、その頃の社会通念から言えば、いちいち(もっと)もで、公事師(くじし)が束でかかっても、批弁の持込みようはありません。

 お絹は染五郎との仲を割かれ、泣く泣く新茅場町の里方へ帰り、染五郎は小網町二丁目の河岸っ縁に建てた、丸屋の土蔵の二階に籠って、別れ別れの淋しい日を送っているのでした。


【語彙説明】


〇扱帯(しごきおび/しごき) ・・・ 女性がおはしょりの着物を対丈(ついたけ)に着るために用いる帯。一幅(ひとはば)の布を適当の長さに切り、そのまましごいて用いる。抱え帯。また、花嫁衣装や女児の祝い着などに飾りとして結び下げる帯。

〇藁(わら)の上から引取る ・・・ <昔、出産の床にわらを敷いたところから>生まれたときから。生まれるとすぐに。

〇情愛の上にいくらか裃(かみしも)を着た ・・・ 「裃を着る」とは、「格式ばっていてうちとけない。言動が堅苦しい。」という意味。
よって、「情愛はあるけれど、少しよそよそしいところがある」「本当の親子ほどの情愛には少し欠ける」と言った意味か。

〇忿怒/憤怒(ふんど/ふんぬ) ・・・ ひどく怒ること。

〇公事師(くじし) ・・・ 江戸時代に存在した訴訟の代行を業とした者。出入師(でいりし)公事買(くじかい)などとも呼ばれる。明治期に代言人制度を経て日本における弁護士制度の源流となった。

〇批弁 ・・・ 



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