『銭形平次捕物控』 「火の呪ひ」 一  (ひののろひ)  著:野村胡堂 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


 「火早(ひばや)い」は、「火事に成ったとき、近隣への延焼、則ち、火の回りが早い」ことかと思ったが、違った。

 図書館で調べると、「火事になりやすい」ことだそうだ。

 しかし、「なりやすい」とは、「火事になる可能性が高い」と言う意味だが、その原因は何か?

 「木造家屋、密集、火を扱う店が多い」なんて原因は、今年に限ったことじゃあ、ない。

 「空気が乾燥している」「風が強い」なんてのは、その年だけの特徴と言えるだろうか。

 (さて)、何だったんでしょうねえ。


【本文】 註:旧かな遣い、正漢字で書かれています。


(平次) 「お前は何んのせゐだと思ふ」

(八五郎) 「人間の仕業(しわざ)ですよ、親分」

 「何んだと」

 ガラツ八は大變なことを持つて來たのです。

 四年この方、江戸中を騒がせた『火の呪ひ』を、人間のせゐと見破ったガラツ八の慧眼は、この男にしては近頃の大手柄だつたのでせう。

 「干支や年廻りなら、(とり)とか(さる)とか、たった一年で濟むことぢやありませんか。

 火早いのが四年續いて、毎晩三ケ所五ヶ所から、素性の知れない火をふくのは、人間の悪戯(いたづら)でなくて何んでせう」

 「えらいツ、八。そこまで氣が付いたのはさすがだ

 「――でせう、親分」

 八五郎は急に衣紋を正したりするのでした。

 親分にかう褒められたのは、三年前御府内荒しの三人組を手捕りにした以來のことです。


【語彙説明】


〇火早い/火早(ひばやい) ・・・ 火事になりやすい。

〇衣紋/衣文(えもん)を正(ただ)す ・・・ 衣服を形よく、着崩れしないように着ること。また、そのための着用のしかた。



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