『銭形平次捕物控』 「呪いの銀簪」 七  (のろいのぎんかんざし)  著:野村胡堂 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


 東京・浅草の「ろっく」と聞けば、「浅草ロック座 」のことしか思い浮かばなかった。

 ストリップ劇場ですね。

 「浅草六区」は、明治時代に行われた浅草公園の整備における区画番号の第六番目を指したものだそうだ。

 その第六区は、歓楽街の代名詞だったんですね。

 今の今まで、知らなかったなあ~(笑)


【本文】 註:旧かな遣い、正漢字で書かれています。


 「親分、この四本の(かんざし)のうち、平打ちの二本だけは真物(ほんもの)の銀だが、あとの二本は真鍮台(しんちゅうだい)銀流しをかけた、とんだ贋物(いかもの)ですぜ」

 「何?」

 銭形の平次もこれには驚きました。

 四人の女を殺した四本の簪を役所から借り出して、顔見知りの飾り屋に鑑定して貰うと、この始末です。

 しかし、銀流しと聞いて平次の心の中には、驚きの底にも一道(いちどう)の光明がサッと射し込みます。

 大事の証拠の簪はガラッ八に持たせて役所に返し、自分はその足で両国の盛り場へ。

 言うまでもなくその時分の東西の両国の(にぎ)わいは、今(昭和六年当時)の浅草の六区(ろっく)のようなもの、見世物、軽業、

歌舞伎芝居が軒を並べ、その間に水茶屋が建て込んで往来の客を呼ぶ外、少しの空地へもテキ屋が割り込んで、

人寄せの独楽(こま)やら、居合抜き、三文手品、豆蔵(まめぞう)、弘法様の石芋(いしのいも)安玩具(やすおもちゃ)などを声を()らして売っております。


【語彙説明】


〇平打ち(ひらうち) ・・・ 平打簪/平打ち簪(ひらうちかんざし)のこと。

 形が薄く平たい円状の飾りに、一本または二本の足がついたもの。
 武家の女性がよく身につけた銀製、または他の金属に銀で鍍金したものが主で、
 これらを指してとくに銀平(ぎんひら)と呼ぶ。

〇銀流し(ぎんながし) ・・・ かつて水銀に砥粉 (とのこ)をまぜ、銅や真鍮などの金属にすりつけて銀色に仕上げたことから、見掛け倒しという意味を持っている。

〇贋物(いかもの/がんぶつ) ・・・ にせもの。まやかしもの。「いかもの」は当て字読み。

 如何物/偽物(いかもの) ・・・ 本物に似せたまがいもの。いかさまもの。

〇一道の光明(いちどうのこうみょう) ・・・ 一道とは、細長いものの、ひとすじのこと。細長いひとすじの光。

〇浅草の六区(あさくさのろっく) ・・・ 通称「浅草六区」(あさくさろっく)は、東京都台東区浅草にある歓楽街。

 正式には「浅草公園六区。通称「浅草六区」または「公園六区」と呼ばれる。

 浅草寺周辺の盛り場は元禄時代の頃からで、やがて江戸最大の規模に発展した。
 明治6年(1873年)3月「浅草公園」と命名された。

 「六区」は元々明治17年(1884年)より始まった浅草公園の築造・整備における区画番号の第六区画を指した。



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