『銭形平次捕物控』 「血潮の浴槽」 三 (ちしおのよくそう) 著:野村胡堂 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


 八五郎の台詞に「(さら)しの手」「青の三丁持(さんちょうもち)」が出て来る。

 大概の事は、図書館で調べると判明するのだが、これだけは分からなかった。

 「晒し」が邦楽の曲にあることは分かったが、「青の三丁持」が何であるか、「晒し」とどう関係するのか、解らない。


 ある和楽器関係の方にメールしたところ、音大の教授に訊ねて下さり、次の様に回答があった。


  ここで言う「曝しの手」「青の三丁持」は、どちらも掛け言葉のようである。

  邦楽の「晒し」と悪事などを「曝す」を掛けていること。

  刃物や武器を3つ持つことを「三丁持」と言うので、セリフの中の用件が三つあることと掛けているのではないか。


 お調べ下さり、有難うございました。

 この場を借りて、御礼申し上げます。


【本文】


 「すぐ行くんだよ、八」

 「お言葉だがね親分」

 「なんだえ、急に坐り直したりなんかして」

 「お言葉だが――ときたね親分、銭形平次親分の一の子分で鑑識(おめがね)(かな)って現場へ二度も行ったこの八五郎が、

それくらいのことを聴かずに帰るものでしょうか――てんだ」

 「馬鹿だなア、鼻の頭を無闇(むやみ)(こす)ると、そこが赤くなるよ。聴いて来たなら、なんだって言わないんだ」

 「(さら)しの手には惜しかったよ、親分」

 「青の三丁持だ、――ね、こういう(ねた)さ。丑松(うしまつ)は正直一途(いちず)の人間で金を溜めるより(ほか)に望みのない男だか、若いせいか、稼業柄(かぎょうがら)にしちゃ、少し女癖が悪い」

 「フーム」

 「それから、()めておいたはずの金も、どう捜しても見付からず、本人もどこに隠してあるか言わない――これで二丁」

 「刃物(はもの)は」

 「そこだよ親分、丑松は能登(のと)の国の猟師(りょうし)(せがれ)で、国に()る時はあれを使って(けもの)を追い廻した。

江戸へ出る時、道中の用心脇差(わきざし)代りに差して来て、釜前(かままえ)(なた)代りに薪を割っていたが、二三日前から見えなくなったって――言うんで」

 ガラッ八はすっかり有頂天(うちょうてん)でした。

 これだけの証拠で丑松が縛られれば、本当に天下泰平だったことでしょう。


【語彙説明】

〇鑑識(おめがね)に叶(かな)って ・・・ 「鑑識」は「物の真偽・価値などを見分けること。また、その能力」のことで、八五郎にその能力が備わっていると親分に認められた、の意。「お眼鏡に叶う」の「お眼鏡」の当て字にしたもの。

〇曝(さら)しの手(て) ・・・ 邦楽に「晒し」があり、「悪事を曝す」と掛けている。

〇青(あお)の三丁持(さんちょうもち) ・・・ 武器の「三丁持」と要件が3つあることを掛けている。



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