『銭形平次捕物控』 「井戸の茶碗」 一 (その2) (いどのちゃわん) 著:野村胡堂 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


 白雲頭(しらくもあたま)とは、白髪頭(しらがあたま)と同じ意味とばかり思い込んでいたが、手抜きしちゃ駄目ですね。

 「白癬頭」とも書き、白癬菌(はくせんきん)が髪の毛に寄生して生ずる皮膚病なんだそうですね。

 戦前はよく見られたが、現在は(まれ)だそうである。

 白癬菌という(かび)が足に繁殖すると、「水虫」。男性の股間に発生すると「いんきんたむし」と呼ばれる。

   註:「いんきんたむし」は股部白癬(こぶはくせん)とも呼ぶ。


【本文】 註:旧かな遣い、正漢字で書かれています。


 「茶碗一つが五十兩だとさ。――それが安いつて大喜びだ」

 久吉(ひさきち)の機嫌は(もつ)ての(ほか)です。

 (もつと)も、五十兩といふのは當時にしては一と身上とも言ふべき大金で、白雲頭(しらくもあたま)の頃から奉公して、

遠縁(とほえん)だけに(ろく)な給金も貰はず、折角(せつかく)狙つた要屋(かなめや)の家督は、赤の他人の、

養子(ようし)山之助(やまのすけ)に取られてしまつた久吉としては、何時暖簾(いつのれん)を分けて貰ふ當てもないこのせつ、

隱居(いんきよ)が五十兩で茶碗を掘り出した夢中な姿が、ツイ小癪(こしやく)にさはつたものでせう。

 久吉は取つて二十八の、多血質で赤い顏をし、物事に容赦のならぬ男でした。


【語彙説明】

〇白雲頭/白禿瘡頭/白癬頭(しらくもあたま) ・・・ しらくものできている頭。小僧(こぞう)丁稚(でっち)などを、ののしっていう場合にも用いられる。

〇陸(ろく) ・・・ 無意味で、なんのねうちもない。つまらない。

 「陸な給金も貰はず」 ・・・ 「僅かな給料すら貰わない」の意味。

〇要屋(かなめや) ・・・ 固有名詞。海道筋の老舗で質両替をやっている屋号。

〇多血質(たけつしつ) ・・・ 快活で、活動的であるが、感情が激しく、変化しやすい性格。



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