『銭形平次捕物控』 「受難の通人」 一  (じゅなんのつうじん) 著:野村胡堂 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


最近の麻雀番組は、アナウンサーや解説者が、横文字 ―― 英語 ―― が好きらしく、頻繁に使う。

野球やサッカーなら兎も角、なんで麻雀でなんだろう、と、思う。

欧米のルールで行う麻雀なら、まだ納得いくが、元々チャイナ発祥であろう。

最近目立つのが「ビハインド(Behind)」である。

「北家の○○選手は、トップから3000点、ビハインドですね」

要するに、トップから3000点リードされている、と、言うことです。

英語にすれば深味のある解説になっているかと言うと、中身は全く進歩していない。

寧ろ、麻雀番組の場合は、下劣になっているんじゃあないかと思われる。


【本文】 註:旧かな遣い、正漢字で書かれています。


 大地主と言つても、しもたや暮しで、そんなに大きな(かまへ)ではありません。

 元鳥越町の甚内橋(じんないばし)(たもと)に、角倉(かどくら)のある二階建、精々間數(まかず)は六つ七つ、庭の(ひろ)いのと、洒落(しやれ)離室(はなれ)のあるのと、木口(きぐち)の良いのが自慢――といつた家です。

 主人の源吉は三十そこ/\、歌舞伎役者にもないといはれた男振りと、藏前の大通(だいつう)達を壓倒(あつとう)する派手好きで、その頃江戸中に響いた伊達者(だてしや)でした。

 小唄、三味線、雜俳(ざつぱい)楊弓(やうきう)香道(こうどう)から碁將棋(ごしやうぎ)まで、何一つ暗からぬ才人(さいじん)で、五年前先代から身上(しんしやう)を讓られた時は、

あの粹樣(すゐさま)では丸屋の大身代も三年とは()つまいと言はれたのを、不思議に減らしもせず、

あべこべに()やして行つて、世間をアツと言はせました。


【語彙説明】


○しもたや(仕舞屋) ・・・ 店じまいをした家の意の「仕舞(しも)うた屋」から変化した言葉で、商売をしていない家のこと。

○角倉(かどくら) ・・・ 

○木口(きぐち) ・・・ 建築用木材の種類、等級。木柄。木品(きしな)。また、材木。

○大通(だいつう) ・・・ 遊里の事情の遊興の道によく通じていること。また、その人。本当の通(つう)。

○伊達者(だてしゃ/だてもの) ・・・ 派手な服装で粋なことを好む人。ぜいたくで、風流を好む人。派手好みの人。おしゃれな人。ダンディー。だてもの。

○雑俳(ざっぱい) ・・・ 江戸時代に行われた通俗的俳諧。連想形式でつながっていく長編の本格的俳諧に対し、その練習形態として、2句間のみの付合(つけあい)である前句付(まえくづけ)俳諧が行われ、それから派生した一種の懸賞文芸が雑排。

○楊弓(ようきゅう) ・・・ 楊柳(ようりゅう)でつくられた遊戯用の小弓。「楊」はカワヤナギで「柳」はシダレヤナギであり、代表的なヤナギのことを指す。

○香道(こうどう) ・・・ 一定の作法のもとに香木をたき、立ち上る香気の異同によって古典的な詩歌や故事、情景を鑑賞する文学性、精神性の高い芸道です。ちなみに、香道では、香りを「かぐ」とは言わず、「聞く」と表現する。

○粋様(すいさま) ・・・ 遊里などで、粋な人を敬愛の気持ちでいう。




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