『銭形平次捕物控』 「結納の行方」 一 続き (ゆいのうのゆくえ) 著:野村胡堂 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


 テレビドラマ『銭形平次』の大川橋蔵の投げ銭や十手を使った格闘は、格好良かった。

 私は昭和の子供である。

 真似しましたねえ。


 大川橋蔵は、半官流の宗家・中島正義に十手術を指導して貰い、二挺十手術も殺陣師と一緒に稽古したと云う。

 投げ銭も古武道にあり、基本から習得した、と今になって知った。

 子供心にも、二挺十手は本当に見事だったと印象に残っています。


 だから、格好良かったんですねえ。

 何でもそうですが、基本が大事なんですね。


【本文】 註:旧かな遣い、正漢字で書かれています。

 一(りょう)はざつと四(もんめ)、その頃の良質の小判は一枚でも今の相場にして一萬圓位につくわけで、三千兩の値打、直譯(ちょくやく)して三千萬圓、經濟力は五千萬圓にも相當(そうとう)するでせう。

 三貫とも(まと)まつた錢を持つたことのないガラツ八が、こんなこと言ふのは洒落(しやれ)にも我慢にもなりません。

 「放つて置けば大黒屋の亭主は本當に首でも(くく)るかも知れませんよ。それに、品川小町のお關を見ただけでも、飛んだ眼の法樂(ほうらく)だ――」

 「()さないか、馬鹿野郎、――品川は繩張り違ひだ」

 「池の端は親分の支配(しはい)だ」

 「支配――てえ奴があるかい、人聞きの惡い」

 「兎に角行つて見ませう。人助けの爲だ」

 「それぢや池の端の江島屋の方へ當つて見るとしようか」

 「有難てえ、それで頼まれ甲斐があつたといふものだ」

 漸く腰をあげた平次。

 ガラツ八はその後ろから、()つ立て尻になつて(あふ)ります。


【語彙説明】

○小判は一枚でも今の相場にして一萬圓位(一万円) ・・・ 「今の相場」は昭和10年頃のことで、令和4年の現在なら10万円に相当するだろう。従って、「三千両」は3億円。「五千両」は5億円に相当すると思われる。

○直譯(ちょくやく) ・・・ 

○飛んだ ・・・ 非常に。たいへん。

○法樂(ほうらく) ・・・ 仏教用語。仏の教えを信受する喜び、仏の教えが生ずる喜びのこと。転じて、一般に慰み、楽しみ、遊び、娯楽、のこと。「放楽」とも書く。

 「眼の法樂」と同じ様な意味で「目の保養」「目の正月」「目の薬」とも言う。美しいものや綺麗なもの、あるいは珍しいものなどを目にして、喜んだり楽しんだりすることを表現する慣用句です。

○帆(ほ)つ立て尻 ・・・ 「尻に帆を掛ける」と同じ意味。

 「尻に帆を掛ける」・・・あわてふためいて逃げだす。さっさと逃げだす。また、せわしくあちこちに出かける。

 帆船が帆を掲げれば、走行する、帆を下げれば停止する。この様子を人間に(なぞら)えたもの。



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