『銭形平次捕物控』 「玉の輿の呪い」 二 (たまのこしののろい) 著:野村胡堂 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


私はYouTubeで銭形平次の朗読を聴くのだが、聴き慣れない言葉を耳にする。

または、懐かしい言葉だったりするのだが、どんな漢字で書くのか思い浮かばない。

これを辞書引くのが楽しみの一つ。

「久離を切られて」もそうだ。

聴いたことが無い。


【本文】

 お菊には去年の秋から、落合(おちあい)徳松(とくまつ)という、悪い虫が付いていたのです。

 徳松は落合村の百姓の子で、素姓の悪くない男ですが、友達にやくざが多かったので、いつの間にやら、

その道に深入りし、親許(おやもと)久離(きゅうり)を切られて、一廉(ひとかど)兄哥(あにい)で暮しておりました。

 お菊が背を見せたとなれば、匕首(あいくち)ぐらいは振り廻すはずですが、相手が大名と聞くと、威張り甲斐も暴れ甲斐もありません。

 仲に入る人があって、手切れが三十両、女から男へやって、これは無事に話がつきました。

 それから九日、化粧と仕度で大騒動をして、明日はいよいよ大名屋敷に乗り込もうという前の晩 ――。


 継父(けいふ)弥助の()()、歳はお菊より二つ上の二十歳ですが、体が悪く不器量で、

あまり店へも出さないようにしている、お吉と一緒に銭湯へ行って、途中まで帰って来たところを、

―― お吉が湯屋(ゆや)手拭(てぬぐい)を忘れて、それを取りに戻った間に、無慙(むざん)喉笛(のどぶえ)()き切られて死んでいたのです。


【語彙説明】

○久離を切る(きゅうりをきる) ・・・ 江戸時代の親族関係を断絶する方法の一つ。〔詳細説明

○一廉兄哥(ひとかど あにい) ・・・ いっぱしのアニキ気取り。〔詳細説明



 次の本   前の本   読書の部屋   TOP-s