『銭形平次捕物控』 「南蛮仏」 五 (なんばんぼとけ) 著:野村胡堂 より一部抜粋
【還暦ジジイの解説】
「南蛮仏」とは、キリスト教の像のことです。
言い得て妙。
今回の場合は、マリア様が赤子(キリスト)を抱いている像のことです。
殺された周助が仏壇に隠すように祀っていたんですね。
要するに、隠れ切支丹。
隠れ切支丹とは言え、当時、布教活動さえしていなかったら、お咎めはなかったんだそうです。
平次は、殺された周助と同郷の医者・石沢閑斎を訪れました。
【本文】
(五)
一向流行りそうもない医者ですが、半分は幇間らしく、よくしゃべる五十五六の坊主です。
「お前さんは周助と昵懇だったそうじゃないか」と平次。
「とんでもない、これでも代診こそ置きませんが、門戸を張っている医者ですよ、鉄砲笊を担いで歩く屑屋と昵懇でいいものでしょうかね、親分」
「屑屋だって人間に変りはあるめえ。大名高家じゃあるまいし、医者が友達になっても構わねえように思うがどうだろう」
「そう言えばそれに違いないようなものですが・・・」
「それに、お前さんと周助は、同国だっていうじゃないか」
「同国には同国ですがね」
「やはりその切支丹仲間のようなものかい」
平次はズバリと言い切りました。
【語彙説明】
〇代診(だいしん)・・・ 担当または主たる医師に代わって他の者が患者を診察治療すること。また、その人。
〇門戸(もんこ)を張(は)る・・・ 1.一家を構える。 2.家の構えを立派にして、見えを張る。 3.一派を立てる。
〇鉄砲笊(てっぽうざる)・・・ 細長いざる。紙くず拾いなどが背負っている、円筒形のざる。