『富木殿御書』 (ときどのごしよ)   その3 
  ~  ~


【ジジイの説明】





<富木殿御書>

【現代口語訳】


 したがって正法(しょうほう)を信じない悪友と親しくすると、その悪心に染まってしまい、仏の身体から血を流させたり、

父母を殺害してみたり、諸聖人の命を断ってしまったり、僧団(そうだん)和合(わごう)を乱してしまったりして、すべての善根(ぜんこん)を捨て去ってしまうことになる。

 だがいつも正法を信じ念じていれば、こうした悪友のことから離れて悪道に落ちなくてすむことができる。

 もしも人が甚だ深い正法を誹謗した場合は、無限の間にわたって解脱することはできない。

 またもしも衆生にこと正法を信じさせ覚らせるようにしむけた者がいたとしたら、この人は衆生にとって父母であり善い指導者であって、智者というべきである。

 如来の滅後に間違った見解に落ち入った人や正邪をさかさまに考えてしまっている人々を改心させて正道に入らしめるからである。

 仏法僧の三宝に清浄の信心を起こし、もって仏に成るための功徳を積むことになるのである」 <「」かっこの終り>

 とある。


   竜樹菩薩(りゅうじゅぼさつ)の『菩提資糧論(ぼだいしりょうろん)』には、

 「父母、師匠を殺すといった五逆罪を犯すことよりも、正法を誹謗した罪のほうが、はるかに重いものである。

 五逆罪を数多く犯しても正法を誹謗した罪に比較すると百分の一にも及ばないものである」

 とある。


【読み下し文】


 悪知識(あくちしき)に近づきて悪心(あくしん)にして仏の血を(いだ)し、及び父母を殺害し、(もろもろ)聖人(しょうにん)の命を断じ、和合僧(わごうそう)破壊(はえ)し、

及び諸の善根(ぜんこん)を断ずと(いえど)も、(ねん)を正法に(かけ)るを(もつ)て、()()(ところ)解脱(げだつ)せん。

 ()復余人(またよにん)あって甚深(じんじん)の法を誹謗(ひぼう)せば、()の人無量劫(むりょうこう)にも解脱(げだつ)を得べからず。

 ()し人、衆生をして是くの如き法を覚信(かくしん)せしめば、(かれ)はこれ()父母(ふぼ)(また)これ善知識なり。

 ()の人はこれ智者なり。

 如来(にょらい)滅後(めつ)邪見顚倒(じゃけんてんどう)(めぐ)らして、正道(しょうどう)に入らしむるを(もつ)ての(ゆえ)に、三宝清浄(さんぽうしょうどう)の信、菩提功徳の業なり」等云云(うんぬん)


 竜樹菩薩(りゅうじゅぼさつ)の『菩提資糧論(ぼだいしりょうろん)』に(いわ)く、「五無間(ごむけん)(ごう)()きたまう。

 乃至(ないし)()未解(みげ)の深法に於て執着を起せば、彼の前の五無間等の罪を(あつ)めて(これ)()するに、百分(ひゃくぶん)にしても及ばず」云云。


【原文】








【語彙説明】

〇僧団(そうだん) ・・・ 特別の修行に従う僧侶の団体。

〇善根(ぜんこん) ・・・ 〔仏教〕諸善を生み出す根本となるもの。無貪(むとん)無瞋(むしん)無痴(むち)をいい、これを三善根という。また、善い果報を招くであろう善の業因(ごういん)をいう。


*----------*

【出典 参照】

 『日本思想体系 14 日蓮』 「富木殿御書」 p.211~216  1977年発行 岩波書店

 『日蓮聖人全集 第四巻』 「富木殿御書」 p.211  日蓮・著 渡辺宝陽・編集  春秋社



 次へ   前へ     小部屋    TOP-s