『一握の砂』(いちあくのすな)  著:石川啄木 より一部抜粋   赤字が出題された箇所


 いとも貧しき一美術家ありき。

 常に物置の二階にありて孜々(しし)として其の業を励みぬ。

 貧しき彼は大理石の一塊をだに(あがな)う事能わざりき。

 既にして彼は歩を移して破れたる窓を開けり。

 時は(あたか)も秋。

 万点の星斗(さん)として九皐(きゅうこう)に花を散らし、寥々(りょうりょう)たる鋼色の夜天は厳かに大地を圧して、

 何かは知らぬ大いなる秘密の前に、いい知らず心の躍るもけだかし。


【解説】

 『一握の砂』(いちあくのすな)は、明治43年(1910年)12月1日、東雲堂書店より刊行された石川啄木の第一歌集。

 「我を愛する歌」「煙」「秋風のこころよさに」「忘れがたき人人」「手套を脱ぐ時」の五部構成で、551首が収められている。


 「働けど働けど」から始まり「ぢっと手を見る」「わが暮らし楽にならざり」に至る啄木の有名な詩がある。



漢検の出題:平成19年度(2007年)第1回 準1級 (十)〔文章問題〕



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