ちょっと一服  その71 我思う、故に我在り。その1              2022.07.03



 高校三年生のとき。

 付き合っていた好きな女の子に、振られた。

 何が一番辛いと言っても、何年後かに再会したとき、

 「えっ!付き合っていた?そうだっけ?ゴメン!」

 と、名前すら忘れられていること。


 こっちは、忘れようとしても忘れられず、寝床で涙したのに。


 小学校の時、好きだった女の子が居た。

 朝、見掛けただけで、ドキドキしたものだ。

 ところが、中学生になると、別の小学校から来た女の子を好きになって、前の子は、すっかり忘れてしまった。

 麻疹(はしか)みたいなものさ。

 そう高を括っていた。

 ニ三年もすれば忘れる。

 時間が解決してくれる。

 そう思っていた。

 しかし、違った。


 毎晩、今日こそ忘れているだろう、と、自分をテストする。

 彼女の家の電話番号10桁。

 嗚呼!未だ憶えている!

 涙・・・涙、涙


  あははは

  そりゃそうですよね、毎晩テストしてりゃ(笑)

  逆に、忘れられるもんか。


  還暦の今になって、笑える。


 そう考えると、楽しかった想い出の、最大の破壊者が彼女。

 最大の危険人物、最大の敵、

 と、なってしまう。

 これが一番怖い。

   だから、モト彼女を殺害してしまったりする事件が起きるんでしょうねえ。

   今でも好きなんだから、大切にしそうなものなのに。

   それなら、赤の他人の方が良かったじゃない、となってしまう。

   悲劇ですねえ~



 我思う、故に我在り


 「思う」も「在り」も想い出のことではないか、

 と、私は、理解している。


【解説】

 「我思う、故に我在り」は、十六世紀のフランスの哲学者・デカルトが、著書『方法序説』の中で用いた言葉。

 「世の中の全てのものの存在を疑ったとしても、それを疑っている自分自身の存在だけは疑うことが出来ない」

という意味だそうで、近代的な合理論の出発点となった命題だとされている。

 英語: I think,therefore I am.

 フランス語: Je pense,donc je suis

 ラテン語: Cogito,ergo,sum (コジト・エルゴ・スム)


【プロフィール】

 ルネ・デカルト (1596~1650年、54歳没)。フランスの哲学者、数学者。


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