ちょっと一服  その60 やっぱり、読書が面白い!    



私の様な還暦過ぎの者は、『銭形平次』と聞けば、大川橋蔵を思い浮かべる。

小学生の頃、テレビで欠かさず観た。


平次の手下の「がらツ八」こと八五郎は、早栃(はやとち)りの上に鼻の下が長い。

勿論、平次より劣る顔の造作で、お(つむ)も弱い役柄である。


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テレビで観ている時は、平次に同化する。

自分は、八五郎とは違う。

将来、自分は平次みたいに成る、と小学生の男の子は思った。


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ところが、今になって読書で体験する八五郎は異なるのだ。

まあ、こんな還暦ジジイに成ったから、かも知れないが、

十分、八五郎の失敗はやらかすなあ、と同情どころか、戦慄するのである。


例えば、旅姿の美女が現れて、

「ねえ、八五郎親分」と艶めかしく肩を寄せて頼みごとをされる。

自分は親分じゃあない、親分は平次で、自分はその手下である。

そんな見え透いたお世辞に、茶の間なら騙されないが、読者だと騙されるのだ。

あっはっははは


テレビや映画より、断然、読書の方が面白く、感動が大きい。

これはよく耳にする経験談である。


よく耳にしていながら、この為体(ていたらく)である。

何故、本で読んでみようとしなかったのか!


『銭形平次』は幼い頃からの馴染(なじ)みで、テレビでよく知っている。

だから、原作なんてあらためて読むのは面倒だし、大体から薄っぺらい内容の推理物だ、と思っていた。


しかし、読んでみて愕然とした。

面白さが倍増するとか、そんなモンじゃなかった。


あああー、なんと云う失敗!

反省!反省!大反省!


教科書に載せろとまでは言わないが、中学生高校生の夏休みの必読書にすべきだ。

『銭形平次の恋文道中記』、それと岡本綺堂の『海賊船(かいぞくぶね)』は、是非是非、推薦図書に加えて貰いたい。


【図書案内】

 『銭形平次捕物控』 長篇「恋文道中記」   作:野村胡堂 

 書籍は絶版だが、Amazonの電子書籍サービス「Kindle」なら読める。

 「恋文道中記」・・・尾張六十一万石の奥方の若い頃の恋文が奪われ陰謀の種となった。

 その奪還を依頼された平次と八五郎が、恋文を追って東海道を下る。その道中の奇々怪々の面白さ。



『女魔術師 傑作情話集』 所収 『海賊船(かいぞくぶね)』   作:岡本綺堂  光文社時代小説文庫

  『海賊船』・・・改易を申し渡され、流浪の身となった武士一家が辿る凄絶な冒険譚。


【語彙解説】

 為体(ていたらく)・・・ありさま。ようす。ざま。現在では、ののしったり自嘲をこめたりして、好ましくない状態にいう。


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