ちょっと一服  その44 最高の贈物 その1        



 三十代、私は、尊敬する或る大学教授(以下「先生」)の著作を全作読破しようと、暇を見付けては古本屋を歩いた。

 しかし、第七作目だけが、十年探しても、見付けられなかった。

 未だ、インターネットが普及していない頃だ、関西一円は(もと)より、東京・神田まで足を運んだ記憶がある。

  


 私は、最後の手段に訴えて、手紙を書いた。


 「先生の著作を全作集めようとしたが、どうしても、第七作だけが見付からない。

  定価で譲って欲しい。」


 恐らく私の手紙が届いた当日に発送して下さったのだろう。

 直筆著名入の第七作が、数日で私の手元に来た。  


 欣喜雀躍! 


 この最後の手段、実は、先生が若い頃、使った手口だったのだ。(笑)

 その(くだり)は、数ある著作の中でも一箇所にしか書いていない。


 先生は、私が嘘を吐いていないことを察したに違いない。


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