『銭形平次捕物控』 「青い帯」 二  (あおいおび)       著:野村胡堂 より一部抜粋


【還暦ジジイの解説】


 よく使われるのに、いざ、漢字で書くとなると、分らない言葉というのは、間々(まま)ある。

 「()って」という言葉も、その一つだ。

 それにしても「強」という字は、小学校の早い時期に学ぶのに、これほど、読み方の多い字は無い。

 好きだなぁ~


【本文】 註:歴史的假名遣い、正漢字で書かれています。


 困つたことにお勢は、大夕立(おほゆうだち)に洗はれて冷え込んだものか、その少し前から、ひどい腹痛を起して、(にぎ)やかな席にも顏を出さず、階下の四疊半に、キリキリと差し込むのを(おさ)へて、たつた一人(もだ)えてをりました。

 「困つたワねえ、お醫者を呼ばうかしら」

 忙しい中から、お秀は時々差しのぞきましたが、その度毎にお勢は、

 「いえ、何んでもないの、()(なお)るから、そつとして置いて下さい」

 唇を()みながらも、()つて辭退(じたい)するのです。

――「お(せい)ちやんはさう言つたけれど、矢張りお醫者に診て貰つた方がよかつたかも知れない。でも、その時はお客が後から/\見えるし、手が足りないし、お萬は氣がきかないし、本當にてんてこ舞ひだつたから、氣になりながらツイ(はな)つて置いて、本當に()まなかつたと思ひます」――

と後でお秀は言ふのです。



【語彙説明】

〇四疊半/四畳半(よじょうはん)

〇お醫者/お医者(おいしゃ)

強つて/強って(たって) ・・・ 無理を承知で強く要求・希望するさまを表す言葉。当て字で「達て」と書くこともある。

 無理を承知で強く希望・要求することを表す副詞で、日常で「ぜひとも」「どうしても」と強調したいときに使われる。

〇辭退 /辞退(じたい)

〇お萬/お万(おまん) ・・・ 女性の登場人物の名前

〇本當に/本当に

〇氣がきかない/気がきかない

〇濟まなかつた/済まなかった



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